第四幕、御三家の幕引
「じゃあ、もっといい男が彼氏なんだってマウントとれてよかった?」
だから、茶化した台詞に笑い過ぎて力が抜けたことにした。彼方に抱き着くように抱きしめてもらって、その肩に顔を埋めた。
「ナルシスト」
「えー、だってパッと見て俺のほうが背高かっただろ?」
「男は身長じゃないよ」
「じゃあ何?」
「浮気しないこと」
「やっぱり俺じゃん」
「彼方が一番ダメだよ」
「マジ? マウントとれてなかったか」
「でも、彼方のほうが孝実よりいい男だよ」
「よっし!」
「彼方のほうが背高いし、イケメンだし、頭良いし、優しいし、料理上手らしいし、腕っぷしあるし、血も繋がってないし……」
「完璧じゃん。なんで付き合ってもらえないんだろ」
最後の一言にすら、彼方は特別な反応をしなかった。その反応にきっと思考は介在してなくて、だからやっぱり桐椰くんの兄弟なんだと思う。
「そうだね、なんでも、彼方のほうが孝実より……なんでもできるのに」
条件やスペックで恋なんてしてない。それはそうなのだけれど、それにしたって、彼方のほうが何もかも優れてるのに、先に出会った彼方に恋をすることはなかった。そのほうが楽だったはずなのに。
「恋愛なんてそんなもんでしょ。琴線は人それぞれなんだからさぁ」
「……私の琴線、どうかしてる」
「知ってる。亜季ちゃん、全然俺のこと好きになってくれないんだから」
「それは彼方も私のこと好きじゃないからだよ」
「はは、それはそうかも」
ぽんぽん、と後頭部を包み込むように叩いてくれたその手に甘えるように目を閉じた。瞬間、容量オーバーした涙が、目蓋ギリギリを滑った。
「……もう大丈夫だと思ってたんだ」
「会っても?」
「うん」
よしりんさんに言われたときに、強がりや誤魔化しで頷いたわけではない。私はもう、心の中のどこかで、ちゃんと孝実を好きではなくなったと思っていた。
でも実際は、好きではなくなったというより、孝実との関係を結び直すことを諦めたというほうが近かった気がする。どう足掻いても、最初の関係にすら戻れないことを悟っただけだった気がする。
だから、茶化した台詞に笑い過ぎて力が抜けたことにした。彼方に抱き着くように抱きしめてもらって、その肩に顔を埋めた。
「ナルシスト」
「えー、だってパッと見て俺のほうが背高かっただろ?」
「男は身長じゃないよ」
「じゃあ何?」
「浮気しないこと」
「やっぱり俺じゃん」
「彼方が一番ダメだよ」
「マジ? マウントとれてなかったか」
「でも、彼方のほうが孝実よりいい男だよ」
「よっし!」
「彼方のほうが背高いし、イケメンだし、頭良いし、優しいし、料理上手らしいし、腕っぷしあるし、血も繋がってないし……」
「完璧じゃん。なんで付き合ってもらえないんだろ」
最後の一言にすら、彼方は特別な反応をしなかった。その反応にきっと思考は介在してなくて、だからやっぱり桐椰くんの兄弟なんだと思う。
「そうだね、なんでも、彼方のほうが孝実より……なんでもできるのに」
条件やスペックで恋なんてしてない。それはそうなのだけれど、それにしたって、彼方のほうが何もかも優れてるのに、先に出会った彼方に恋をすることはなかった。そのほうが楽だったはずなのに。
「恋愛なんてそんなもんでしょ。琴線は人それぞれなんだからさぁ」
「……私の琴線、どうかしてる」
「知ってる。亜季ちゃん、全然俺のこと好きになってくれないんだから」
「それは彼方も私のこと好きじゃないからだよ」
「はは、それはそうかも」
ぽんぽん、と後頭部を包み込むように叩いてくれたその手に甘えるように目を閉じた。瞬間、容量オーバーした涙が、目蓋ギリギリを滑った。
「……もう大丈夫だと思ってたんだ」
「会っても?」
「うん」
よしりんさんに言われたときに、強がりや誤魔化しで頷いたわけではない。私はもう、心の中のどこかで、ちゃんと孝実を好きではなくなったと思っていた。
でも実際は、好きではなくなったというより、孝実との関係を結び直すことを諦めたというほうが近かった気がする。どう足掻いても、最初の関係にすら戻れないことを悟っただけだった気がする。