第四幕、御三家の幕引
 そうだ──だから私は、孝実の誕生日には、第六西に泊まることに決めていた。第六西に泊まれるんだと、桐椰くんに聞いたときから、孝実が帰ってくる日のことを危惧していた。孝実は、お盆には母親の実家に直接帰ると話していた。その代わり、誕生日くらいは帰ってくればいいと言われていた。だから、孝実の誕生日は第六西に泊まった。

 結局、私は何も進めていない。桐椰くんの優しさに甘えて、ふらふらと楽なほうに逃げたがっていただけだ。


「……なんていうかね、気にしてくれると思ってたんだ」


 私がずるずると孝実への気持ちを引き摺り続けたように。

 全く同じように引き摺っていてほしかったとまでは言わない。それでも、私のことを妹と迷わず紹介できるほどは、忘れないでほしかった。

 忘れないでいてほしいと相手に思う、この感情を一言に換言すれば“未練”なのだろうか。

 少なくとも、そんな感情を抱いているから、私は、孝実に会いたくなかった。孝実に会って、孝実は私に無関心なんだと、突き付けられることが怖かった。


「男はかっこつけたい生き物だからさ。忘れても忘れてなくても、ちゃんと整理した顔してやるもんだよ」

「……そんなもんかな」

「そーだよ。未練は優しさじゃない」


 ……よしりんさんにも、似たようなことを言われた。でも、今は全然違って聞こえる 。


「だから、昔の恋人を忘れることは悪いことじゃないんだよ」





 新大阪駅へ行き、ホームを確認して上がると、丁度乗車口前の列最後尾に御三家が並んでいるのが見えた。新たに人が並んだ気配を感じたらしい桐椰くんが真っ先に振り向く。


「ギリギリだな」

「うん、話が弾んじゃって」

「あぁ、例の友達? 楽しかった?」

「うん、久しぶりだったから」


 話を振ってくる桐椰くんと松隆くんに、まるで出来の悪いロボットのように答えるしかできなかった。そのせいか、無関心そうにしていた月影くんまでもが口を開く。


「何の話をしていたんだ?」

「え? いや、普通に近況報告というか……」

「つか、いつぶりだったんだよ、その友達」

「えー……と、半年ぶり、くらいかな……」

「あぁ、なんだ、意外と会ってるんだね」


< 76 / 463 >

この作品をシェア

pagetop