第四幕、御三家の幕引
 やっぱり一年ぶりってことにすればよかった。正直に期間を答えてしまったせいで、彼方と会っていたとしても矛盾しないことに気付かれてしまう。


「偶々、ゴールデンウィークに帰って来てて」

「……ふーん」


 そこで、御三家は掘り下げるのをやめた 。でも、その理由を考える余裕はなかった。


「帰ったらまた授業だね」

「すぐ冬休みだろ、もう少しの辛抱」

「冬休み、忙しいんだよ。というか、お正月が面倒くさい」


 親戚の集まりがどうのこうの、と松隆くんが桐椰くんに愚痴っていたけれど、頭に入ってこなかった。代わりに、桐椰くんの横顔にこっそり視線を向けて観察する。

 桐椰くんは、いつも通りだ。昨晩話したときだってそうだったんだから、今日突然取り繕い方を忘れるはずがない。

 でも、だからこそ、気にかかってしまう。桐椰くんは誰から何を訊いて、どう感じているのだろう。彼方に話さなかった心当たりの人物は一人いるけれど、そうなると余計に桐椰くんが謎だ。

 その桐椰くんが、急にこちらを見るものだから、ドキリと心臓が跳ねる。


「……お前さ、どうかしたの」

「え……どうかって」

「なんか元気ないじゃん。楽しかったんじゃねーの、その友達と会うの」


 楽しかった、はずだった。それなのに、孝実と出くわした後は、ただずっと彼方に慰めてもらうだけの時間になった。折角の時間が台無しになった──なんて言うのは、ただその場に現れただけの孝実に失礼だけど、実際そんな感じだ。そして、彼方には申し訳ないことをしたと、今更ながらに思う。ただでさえ会うたびに元気づけてもらってるのに。


「……楽しかったんだけど、ちょっと、疲れちゃって」


 なぜ、このタイミングで、孝実に会ってしまったのだろう。桐椰くんと一緒にいる私に、神様が、何らかの戒めでもくれたのだろうか。

『亜季のことが嫌いで出ていくわけじゃない』

 あの日、家を出ていく前、孝実は、少しだけ私に弁解した。

『ただ、お互い近くにいないほうが幸せだと思っただけだよ』

『……それは、嫌いで出ていくのと、何が違うの?』

 でも、その弁解に釈然としなくて、孝実の口から私への軽蔑を聞きたくて、畳みかけた。

『家族をめちゃくちゃにした私が、許せないんでしょ。だから嫌いで、だから顔を見ないように出ていくんでしょ。違うの?』

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