第四幕、御三家の幕引
 だから、鹿島くんと付き合ったのは、ただ決意を固めるためだけだと言われたらそうかもしれない。


「御三家から離れる口実に俺を使うとは贅沢な」

「寧ろ光栄くらいに思ったら?」

「歌鈴と君と、彼女にしておくのにどっちがいいかと言われたらかなり迷うところだね。見た目は間違いなく歌鈴だけど、話が通じるか通じないかでいえば君だからな」

「利用価値が高いか低いかの間違いでしょ」

「残念ながら、今の君は松隆と桐椰への嫌がらせくらいにしか使えないからね」


 昼食を食べ終えた鹿島くんの指は、お箸の代わりに私の髪を一房掬(すく)い上げる。そこに口づけるわけでもなく、ただくるくると絡めとった。


「松隆と桐椰の前でならキスくらいしてもいいけど、そこであの二人がただ怒るのも面白くないからな」

「子供っぽい嫌がらせのために私の(みさお)を危険に晒すのはやめてくれませんかねぇ」

「価値のないものはそうひけらかすものじゃないよ。間抜けだろ?」


 打てば響くような否定の言葉。それを睦言(むつごと)のような口調で囁いた後、やっぱり鹿島くんは微笑の仮面を被る。


「ま、それでも、浮気はしちゃだめだよ。修学旅行では監視の目がないからって羽目を外さないようにね」


 ぐいっと頭を傾け、その手から髪を抜き取った。修学旅行の行き先は、鹿島くんは北海道、私と御三家は関西だった。


「……分かってますよ」


 鹿島くんの彼女になってから、第六西に行くのはやめた。桐椰くんも話しかけてこない。松隆くんも挨拶くらいしかしない。月影くんは出くわさない。どうせ御三家は鹿島くんに私が脅されたと思ってくれてるんだろうけれど、そうではないのが現実。本当のことを話すときも来ないだろうし、あとはただ高校生が終わるのを待つだけ。

 つまり、私と御三家の関係は、現在下僕未満に成り果てていた。
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