第四幕、御三家の幕引
「いや死ぬほどしたくないんだけど、嫌がらせがやっと留まるところを知ったなって」

「君に嫌がらせするほど暇じゃないんだよ」


 ズズ、とコーヒーを含みながら、鹿島くんは眉間に皺を寄せた。暇なのかなと思うほど散々嫌がらせをしてくれてるのは誰だ。


「なんで、クリスマス何かあるの? もしかして愛人?」

「この寒いのに君の頭は呑気で何よりだな。母がクリスチャンなんでね」


 なるほど、家で盛大なパーティーでもするんだな。焼き菓子を頬張りながら納得した。

 そして、ふと訝しむ。


「……今日、妙に鹿島くんよく喋るね。ご機嫌?」

「君と一緒にいて機嫌がよくなるわけがあるか」

「じゃあ何、気まぐれ?」

「そうだな、そんなところだ」


 早く帰れと言わんばかりに、しっしと手を振られる。あと一時間は居座りまーす、とあっかんべーをしてみせる。鹿島くんは無言で焼き菓子を口にするだけだった。





 十二月二十二日、終業式。金曜日が祝日になっているお陰で、木曜日のうちに学校が終わって得したような、損したような。そんなことを考えているうちに、あっという間に今年最後の登校日が終わってしまった。暫くは家にいる日々だな……と消沈しながらカバンに書類を詰める。


「お前、荷物それだけ? 少なくね?」


 横から急に声をかけられ、一瞬その手を止めてしまった。おそるおそる見た桐椰くんは、やたら重そうなカバンを持っていた。


「……だって、終業式なんて、持ってくるものないじゃん」

「あぁ、お前、教科書とか置いてねーもんな」

「……桐椰くんと違ってちゃんと勉強してるんだもん」


 年末、どうしよう──。何も聞いてないけれど、さすがの孝実も帰ってくるはずだ。顔を合わせたくないけれど、そうもいかない。年末年始は学校も完全に閉められるだろうし、第六西にも泊まれない。でも、お盆と同じ要領でいけば、孝実は家に帰ることなく、そのまま母方の祖父母家に帰るだろう……。それなら、鉢合わせせずに済むかな……。


「……お前さ、年末年始、何してんの?」

 あー、でもさすがに一回戻ってくるかなぁ、と頭を抱えていると、妙に悩ましそうな声が降ってきた。顔を上げれば、声のとおり、眉間に皺をよせて視線を彷徨わせている。


「……何って、寝大晦日に寝正月かな……」

「……あ、そう……」

< 81 / 463 >

この作品をシェア

pagetop