第四幕、御三家の幕引
「なんで?」


 訊いた後で、しまったと気付いた。桐椰くんは私を養子だと知っているから、何か気を遣おうとしたのかもしれない。……年末年始に何の気を遣うのか分からないけど。ただ、訊けば(やぶ)をつつくようなものだ。これは……。


「……いや、なんでもない」


 警戒とは裏腹に、ふいっと桐椰くんは顔を背けた。帰る準備でもするように、いそいそとマフラーを巻き始める。


「……じゃ、また来年、な」

「……うん。よいお年を」

「……ん」


 いそいそと教室を出る桐椰くんを見送った後、私はマフラーとコートを片手に生徒会室へ向かう。家に帰るまでの時間を潰すためだ。昼休みといい、足繁く生徒会室へ通う私を、桐椰くんはいつも何か言いたそうな目で見ていた。それにしては、いくらでも建前なんてあるはずなのに、生徒会室には来ない。そこらへんは桐椰くんなりの線引きなのかなと思う。

 お陰で、生徒会室の扉を開けるのにも慣れた。ガラガラッ、と高そうな扉をぞんざいに開ける。


「あーきとくん、きーたよ」


 いつもならそこで「君の何倍価値があると思ってるんだ、丁寧に扱え」と軽いジャブを打たれるところだけれど、返事はなかった。それどころか、生徒会室は静まり返っていて誰もいない。因みに、鹿島くんがヒエラルキー制度を廃止した結果、お手伝いさんよろしくうろうろしていた無名役員や休憩所よろしく寛いでいた希望役員・指名役員がいなくなったので、生徒会室の人口密度はぐっと低くなった、らしい。ふーちゃんが嬉しそうに話していた。騒がしいのは好きじゃないから、と。

 それはさておき……、誰もいないというのはさすがに妙だ。生徒会室は誰もいないときに常に施錠されている。あの鹿島くんが施錠を忘れるはずがない。ぐるりともう少し辺りを観察する。これは一体……。

 おそるおそる生徒会長の机に近寄ると、机の上は綺麗に片付いていた──筆記用具やパソコンを除いて。離席するので書類はしまうけど、すぐ戻るからパソコンはスリープでいいし筆記用具も出たままでいい、そんな雰囲気だ。椅子だって、中途半端に机の下に押し込んである。書類は綺麗に片付いているのに、それ以外が乱雑……。

< 82 / 463 >

この作品をシェア

pagetop