第四幕、御三家の幕引
 否が応でも毎日鹿島くんを眺めているので、その几帳面さはよく伝わってきた。机周りはいつも綺麗に掃除しているし、少し気になれば他の人の机も整理している。人格破綻者ではあるけれど、妙な人格者らしき一面もあるらしい。

 その鹿島くんが、机の片づけもそこそこに、生徒会室の鍵もかけずに、どこかへ行くだろうか。不思議に思いながらぐるりと椅子のほうへ回って、床に落ちている生徒手帳に気付いた。

 間違いなく鹿島くんのものだ。さすが鹿島くん、生徒手帳もちゃんと持ち歩いてるんだなー、でも落として気付かないってことはやっぱりよっぽど慌てて出て行ったのかなー、なんて思いながら拾い上げて、何気なく開く。

 やはり鹿島くんの生徒手帳だ。生徒会長だからといって何か特別仕様というわけではない、私のものと何も変わらない手帳。なんなら鹿島くんは写真写りもいい。クソッ。

 ただ、そんなことはどうでもいい。目下の関心どころは、身分証の下に覗く写真の端だ。

 生徒手帳と一緒に持ち歩く写真ってことはよっぽど大事な写真に違いない。でも、あの鹿島くんの大事な写真って一体なんだ。そしてこれは見ていいのか。

 ちら、と辺りを見回した。もし他人に見られたくないものなら見るべきではない──が、相手はあの鹿島くんだ。散々私達の弱味を握った挙句、利用できるものは尊厳でも命でもなんでも利用して踏みにじろうとしてくるあの鹿島くん。その弱味を一つ覗き見たからなんだっていうんだ。お相子どころか、それでもまだ足りない。

 だから、罪悪感はなかった。躊躇なく、写真を引っ張り出した。

 そして、眉を顰める。

 写っているのは、女の子だ。お花畑の前で、日傘をさして、半身だけ振り向いて、照れ臭そうに笑っている。特別美人というわけではないけれど、可愛らしくて、それでいて妙に儚げな印象のある女の子だった。日傘と白いワンピースと白い肌のせいかもしれない。黒い髪はふーちゃんのようにさらさらと長かった。年は多分、同じくらいだ。

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