第四幕、御三家の幕引
「毒で即死させるより病気に苦しんで衰弱死してほしい」

「悪趣味だな。それから、死ぬほどなら帰宅してる。残念だったな」

「残念だけど、死ななくてもいいから一生家に引きこもって出てこないのはどうかな。少しは彼女を幸せにしてくれないかな」

「御託が済んだら買ってこい。貸しにはする」

「は! 買ってきて目の前で飲み干してやりましょうか!」


 遂に何も言い返さず、鹿島くんはただ目を閉じた。不規則に上下する胸もその具合の悪さを伝えてくるけど、知ったことではない。というか、ここまでぐったりと疲弊しているのに、やり取りは全く持っていつも通り、ぼろを出す気配なんて微塵もないのが残念だ。


「……手、離してくれませんかねぇ。気持ち悪いです」

「俺も気持ちが悪い」

「それは熱のせいですよね。いや、ていうか、そうだよ、インフルだったら困るんですけど」

「確かに、誰に看病してもらえるでもなく、病院に行こうにもタクって一人で行くしかないというのはなんとも不憫だな」

「具合悪いの演戯じゃないの? 鼻で笑う病人なんて見たことないんだけど。で、インフルだったら困るって言ってるじゃん」

「筋肉痛はないからインフルじゃない。解熱剤は飲んだから効くまでの辛抱だ」

「そこまでして学校にいる意味なに? 学校大好きなの? 家が大嫌いなの?」

「選択肢の狭さが君の思考力の弱さを物語ってるな」

「で、この手はいつになったら離してくれるんですかね!」

「飲み物」

「だから松隆様でもそんなに偉そうじゃないんですけどねぇ!」


 チッ、と舌打ち交じりに腕を振り払おうとしても離れなかった。病人とは思えない力の強さだ。なんなら、再び開いた目が恨みがまし気にこちらを睨んでくる。


「この俺がお前に貸しを作ってやるって言ってる。それで充分だろ」

「だ、か、ら! 本当に何様なの! 言っとくけど、鹿島くんのこと嫌いとかいうレベルじゃないから! このまま死んでもらっても寝覚め悪くもなんともないから!」

「質問に一つ、正確に答えてやる」


 ぴくりと、自分の眉が寄るのを感じた。目でこちらを見ることさえ辛かったのか、その目蓋は再び降りた。


「なんでもいい、聞きたいことを聞けばいい。答えてやるとも、何にでも。ただし、俺から答えを引き出す聞き方をできるかはお前次第だ」


< 86 / 463 >

この作品をシェア

pagetop