第四幕、御三家の幕引
 聞きたいことは、すぐには思いつかなかった。なんなら、鹿島くんの言う通り、聞き方を考えなければ、また嘘を吐かずに本当のことを答えられて終わりだ。今すぐに切れるカードじゃない。

 でも、鹿島くんは、期限を口にしてはいない。このカードを手札に加えておくことはできる。飲み物一本の使い走りは、私次第で安い交換条件になる。


「……分かった。買ってくる」


 頷いた瞬間、鹿島くんの手は離れた。そのまま、その腕はだらんとベッドの横に垂れる。私の腕を握る力は強かったけれど、どうやら振り絞った成果だったらしい。やはり、寝首を掻くなら今しかないようだ。

 ただ、ここで鹿島くんに手を出すほど振りきれない以上、貸しを作るほうが得策だ。そうと決まれば、と一番近い自販機でスポーツ飲料を買ってきた。その後、生徒会室に冷蔵庫があることに気付いて中を見たけど、お茶しか入ってなかったので無駄足にはならずに済んだ。

 休憩室に戻っても、鹿島くんの体勢は変わっていなかった。荒い呼吸をする口の中にそのままペットボトルを突っ込んでやりたい衝動を堪えながら、その首にぴたりとペットボトルを当てる。すると、その目は億劫そうに開いて、気だるそうに体も起きる。


「で? 何が聞きたい?」

「お礼から言えないんですかね」

「対価は既に差し出しただろ」

「ありがとうの一言が対価になるとでも思ってるんですか? 残念ながらそんなの友達同士の間だけですぅ」

「感謝する」


 意地でもありがとうと言わない鹿島くんは、私の手からペットボトルを受け取る前に、覚束ない手つきでネクタイを緩めた。はぁ、とそれだけで疲れたような溜息もついてみせる。


「それで、質問は」


 ぐいっとスポーツ飲料を飲んだ鹿島くんは、不味そうなものでも見るようにペットボトルを見遣る。一口分しか減っていない。


「え、今聞かなきゃいけないの? 私としてはもっと大事にとっときたいんだけどな」

「……別にそれでもいい。熱に任せて口を滑らせたくもないしな」

「それなら今訊こうかなぁー!」

「声が耳障りだ、黙れ」

「それが看病してる彼女にかける言葉なんですかね」

「辞書でも引いてこい、飲み物一本買ってきてなにが看病だ」


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