第四幕、御三家の幕引
 もう私の存在を無視しようとするかのように、鹿島くんは再び寝転がった。ペットボトルは床に置いたまま、シャツとズボンがぐしゃぐしゃになるのにも構わずに布団を引っ張り上げて眠りに入ろうとする。その様子をじっと見ていても、鹿島くんがもう一度目を開ける気配はない。いつもの鹿島くんならここで目と口を開いて嫌味の一つでも吐くけれど……。


「……質問、ねぇ……」


 ガタ、と椅子を机に戻した後、出ていく前にもう一度鹿島くんに視線を向けた。眼鏡を外した鹿島くんの顔は見慣れないし、いつもの嫌味と毒気が抜けたような気がして、少しだけ少年のように見えた。……だから仕方なく、布団を肩まで引き上げておいた。

 休憩室から出た後、もう一度、鹿島くんの生徒手帳を拾い上げた。ついでに鹿島くんの席に座る。生徒手帳を捲ると目につくのは、やっぱり知らない女の子の写真だ。


「……今時ご丁寧にデータで持ってるわけでもないんだもんねぇ。誰なんだろ。お姉さんかな」


 鹿島くんとは似てない……けど、孝実と優実だって目以外は全然似てないし、兄妹なんてそんなものかもしれない。少し悩んで、彼方に写真のデータを送り付けた。

 この人知ってる? 続けてそう打つと、すぐに既読がついた。暇なのかな、彼方……。そして「お、薄幸系美人!」「知らない~」との返事。

『急にどうした?』

『鹿島くんが大事そうに持ってたから盗撮した』

『亜季ちゃん、だめだぞ。それはだめ』

『ごめんちゃい』

『確かに彼氏の元カノの存在は気になるかもしれないし、元カノの写真を大事に持ってる男もどうかとは思うけどね。だからって写真を盗撮したり、データ拡散して素性探るのはちょっとルール違反かなって』

『お説教が的外れすぎるんですが』

 これだから彼方は……。頭が良いのにこの有様、もはやわざとらしすぎるボケなんじゃないかと思えてきた。ツッコミ待ちかな。

『あの鹿島くんが大事に持ってる写真だから、弱味になるかなって』

『俺の亜季ちゃんがこんなに歪んじゃって……』

『そういえば、松隆くんのお兄さんは何か知ってた?』

 そうだとしても、彼方のものになった記憶はないとツッコミを入れる気にはなれなかった。

『あぁ、そうそう、その話ね。直接話そうと思ってたんだ、年末年始帰省するし』

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