第四幕、御三家の幕引
「もしあれで松隆が“家が厳しい”以上の不満を抱いてるとしたら、的外れというか、被害妄想も甚だしい。愛情表現の極端な裏返しだ」

「……なんで鹿島くんがそれを知ってるの」

「なんでだろうな。少なくとも言えるのは、俺とお前と、御三家(アイツら)とは腐っても同類じゃないってことだ」


 吐き捨てるような言い方に、ぎゅっと胸が痛くなった。別に、松隆くんに親近感を抱いていたわけじゃない。ただ、まるで私達のほうが普通じゃないかのように、貧乏籤を引かされたかのような現実に、疎外感は増した。


「……じゃ、鹿島くんと私は同類なんだ?」


 ただ、大事なのはそこじゃない。口が滑ったのか、話しても構わないと思ったのかは分からないけど、少なくとも御三家とは違うというのは……。


「さぁ。別に俺は家族から疎まれてなんかいないから、少なくともその点では違うな」


 今更そんなことを言われても傷つきはしなかった。せいぜい思ったのは、こんな状態でもすかさず攻撃を繰り出すなんて元気があるな、くらいだ。


「へーえ、へーえ。じゃあ鹿島くんは家族に疎まれてはないんですかね!」

「そうだな。君と違って有能に生きることを嘱望(しょくぼう)されているとも」


 チッ、と舌打ちで返した後で、その台詞が含意する棘に気が付いた。


「あぁ、そうだよ。裏を返せば、鹿島家(うち)に無能は要らないのさ」


 見慣れた無表情だったけれど、その顔色の悪さのせいで、強がりに聞こえた。


「ただ、本家の血筋に勝るものはないからな。血のお陰で厄介払いされずに済んでるといっても過言じゃない」

「血……」

「クソみたいに古臭い拘りだ。話は違えど、血のせいで忌まわしいとされる君と、ある意味同類かもな」


 そんな風に抽象化して言えば、笑い飛ばしたくなるくらい馬鹿馬鹿しい拘りだった。そう感じているのは珍しく崩れた口調から伝わってくる。日頃は感情を抑えた喋り方をしてるんだろう。そうなると、松隆くんに少し喋り方が似ているのは納得できた。

 それにしても、今日の鹿島くんはよく喋る。いや、正確には今日ではなくて修学旅行から帰った後からだ。あの時は冗談で機嫌が云々と訊いたけれど、もしかしたらあの頃から体調を崩していたのかもしれない。今日のお喋りには、そう思わせるくらいの自棄っぱちさがあった。


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