第四幕、御三家の幕引
「……鹿島くんは、なんでそんなに私の情報を持ってるの」

「別に特別なことはしてない。このご時世、調べようと思えば個人情報なんてごろごろ転がってるだろう。個人が必死に口を閉ざして隠そうとしてる秘密も、隠せているつもりになってるのは本人だけだ。君はアメリカ大統領にでもなったつもりか?」

「そうじゃなくて、なんでそんなに私の情報を知りたがったんですかねって話です。情報を仕入れる労力と仕入れる情報の価値とは天秤にかけたんじゃないんですか?」

「俺は松隆を蹴落とすためなら些細なコストは惜しまないってだけだ」


 またその結論か……。これだけペラペラ喋ってもなおその理由を譲らないということは、それは本当だと考えていいのか。

 ふと、写真の女の子と松隆くんを結びつける。もしかして、松隆くんが女癖の悪い時期に遊んで捨てた女の子? その子が鹿島くんの好きな子で、その子が傷ついたから復讐しようと……。いや、そうなると時期が合わない。鹿島くんは透冶くんの自殺にまで関与しているけれど、松隆くんのいわゆる女遊びの酷い時期というのは透冶くんが死んだ後だ。

 不意に、ギシ、と椅子の軋む音がしたので視線を向けると、鹿島くんは椅子に凭れ、額に手の甲を当て、ふう、と浅い息を吐いた。当初の印象はどうやら間違いだったようで、解熱剤は効いていないらしい。


「……帰るか」

「最初からそうすればって言ってたのにー」

「終業式以後に学校に来たくはなかったんだがな……明後日あたり開放してもらうか……」

「なんで鹿島くんってそんなに仕事熱心なの? 無能だと怒られちゃうから?」

「それ以外に何がある」


 冗談で口にしたのに、異論を許さないかのようにピシャリとした返事をされたので、それ以上は冷やかせなかった。どんなに嫌いな相手であっても無情にまではなれないらしい、我ながら。


「お前も早く帰れ。施錠できない」

「まだお迎え来てないじゃん、ギリギリまでいいでしょ」

「すぐに来るから出ていろって話してるんだ。君のために一秒でも余分に割きたくない」


 しっし、と手を振られ、渋々グラスを片付け始める。その間に鹿島くんは机を片付け始めた。


「……ねぇ。鹿島くんはさ、私と付き合ってる限り、御三家に手は出さないでいてくれるんだよね」

「そうだな。積極的に俺から何かはしない」

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