第四幕、御三家の幕引
「君がそうやって何度も何度も俺に訊くのは、自分の納得する答えが貰えないからだろ。俺がそこまで松隆を嫌いになるだけの理由が欲しいんだ。家の関係で松隆にひどい仕打ちを受けたとか、松隆に好きな人をとられたとか、松隆のせいで大事な人が死んだとか」


 最後のひとつを言う前に、鹿島くんは一拍置いた。きっと、生徒手帳を回収したときに、私に見られてないはずがないと察したのだろう。そして中身を見た私がそんなことを考えるのは想像に難くない、と。

 写真一枚見たところで弱味を握れたと思うなよ──。きっとそう言いたいのだろう。しかも、これくらいの理由なら透冶くんを死に追いやることも納得がいくだろうと言わんばかりの言い方。きっと、提示された可能性が嘘か本当か分からずに掌で踊る私を嗤う魂胆だ。

 まんまと先手を打たれて黙り込んだ。挙句、鹿島くんはしてやったりなんて表情ですらない。この程度の遣り取り、鹿島くんにとっては駆け引きでもなんでもなく、さっき言ってた“雑談”の延長なんだ。

 なぜ、こうも上をいかれるんだろう──。ぎゅ、とスカートの裾を握りしめた。


「誰かを恨んだり嫌ったり、君はそういう感情に乏しいんだよ。それなのに俺を理解できないって理由だけで疑い続けるのは、自分を普通だと信じて疑わない君のエゴだよ」

「……だから、鹿島くんは、なんとなく気に食わないだけで松隆くんを追い詰めたいってこと?」

「何度も言っただろ。大体、君が聞きたいというから話すのに、話せば話すほど疑うというのはどういう料簡(りょうけん)なんだ」

「……だって、自分と違う人を否定はしないけど……」


 鹿島くんが持つのは激情なのに、それを裏付ける事実が何もない……。

 それはまるで、殺人犯を庇って犯人を名乗っているかのよう。取ってつけたような、有り得そうな、頷けないことはなさそうな動機を告白して、本物の殺人犯の身代わりになろうとしているかのような。そんな違和感が、どうしても拭えない。

 その違和感の鍵はきっとあの写真の女の子なのに、それが鍵ではないかのように、その存在を知られた後は隠しもしない。

 考え込む私に、はぁ、と鹿島くんは呆れたような溜息と視線を寄越す。


「してるだろ。君は自分の理解できる範囲で否定してないだけだ」


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