第四幕、御三家の幕引
 迎えが来たのか、鹿島くんは手早くマフラーを巻き、カバンを手に持った。鍵もちらつかせる。さすがに病人を引き留めて話し続けておくのは、いろんな意味で気が引けた。仕方なく生徒会室を出る。


「分かったら、この話はもうやめろ。いい加減に飽きた」

「……だって、理解できない」

「そんなことを言ったら、俺はそんなふうに御三家と一緒にいる君のほうが理解できないけどね」

「そんなふうってどんなふう」

「そのままの意味だよ。あそこまでベタベタ仲良しこよし。上っ面ってわけでもないんだろ、雨柳の件で泣いたのも演技だったとしたら大したもんだ」

「いやだって、私が御三家のこと嫌いになる理由ないですしね」


 鹿島くんの間違いでは? と胡乱な目を向ければ、鹿島くんこそ胡乱な目を向けた。


「君、まだ松隆の父親に会ってないのか?」

「え、会ったけど。別に全然嫌な人じゃなかったし」

「はぁ? 君の父親と君の母親の話を聞いてないのかって言ってるんだ」


 ……何?

「そんなの、知ってるから私は今の家に……」

「そんなのって、大学時代の恋人で、別れて結婚したけど忘れられなかったってことだろ? それさえ知らなかったとしたら君の脳の欠陥を疑う。そうじゃなくて」


 え、何。待ってよ。何。何それ。

 頭の中にたくさんの疑問符が浮かんで、混乱した頭が鹿島くんの言葉を処理しない。


「松隆の父親が強引に結婚話を進めたってこと。外の場でしか見ないし、あれが人の良い父親なのかどうかは知らないけど、君がその有様と知ればお詫びの言葉一つくらいは寄越したんだろ。実家のために別の女を選ばせたのは自分だとかなんとか」


 それは、何の話。


「まー、話を聞く限り、実家のためっていうのは女の取り合いに終止符を打つための方便だったんじゃないかって気はするけどな。君の養母を紹介したのも松隆の父親なわけだし」


 自分のクラスの前で呆然と立ち尽くす私に構う様子もなく、熱に浮かされて眠そうな目のまま、鹿島くんは自分の下駄箱の前に向かう。


「挙句、結果、君の母親とは不倫したわけだし、相当無茶な結婚話だったんだろうな。とはいえ、こんな古臭い昼ドラ、ただの陳腐な昔話だし、結果があるとはいえ、松隆の父親が狙ってしたことではないし、それでもって松隆自身は全く無関係な話だし。さすがにどうでもいい話か」
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