第四幕、御三家の幕引
十一、その秘密の理由を教えて

(一)背徳の原動力

 クリスマスの次の日、玄関のチャイムが鳴った気がして、むくりとベッドで起き上がった。気のせいかな……と暫く待っていると、再度鳴る。気のせいではないようだし、どうやら居留守を使っても無駄なようだ。仕方なくベッドから降りようとすると、足に力が入らず、視界も一瞬真っ白になって、身の危険を感じて再びベッドに倒れ込んだ。明滅する視界はゆっくりと明瞭になってきて、そこから漸く立ち上がる。

 そんなことをしていたせいか、パーカーを羽織ってスマホ片手に階段をのろのろと降りているうちにまたチャイムが鳴ったので、「はいはい」と呟くような返事をしながら玄関に向かった。誰もいない上にカーテンも引いているとなれば昼間でも薄暗いので電気もつける。


「誰……」


 半分寝ぼけた頭のままゆっくりと扉を開けると、桐椰くんが立っていた。その意味がよく理解できずに、ぼーっとその姿を眺める。歩いてきたのか、鼻の頭が少し赤かった。その手には、お見舞い品にしては妙に家庭感漂うビニール袋が握られていた。


「……えーっと」

「お邪魔します」


 上手く対応できない私を押しのけるようにして、桐椰くんは玄関内に入ってきた。混乱したまま、入ってくるがままにそれを受け入れ、「キッチンどこ」「突き当り」なんて遣り取りをした。私が許すまでもなく、桐椰くんは我が物顔で冷蔵庫を開けたり片手鍋を取り出し、それをダイニングテーブルについて眺める。


「お昼食べた?」

「んーん」

「朝は?」

「寝てた」

「昨日の夜は?」

「寝てた」

「食欲は?」


 お腹を上から軽くさすった。ぺったりと凹みきったお腹には何も入ってないことが明らかだ。とはいえ、特別お腹が空いて死にそうというわけでもない。ただ、何も食べたくないと積極的に思うほどでもない。


「ないというほどでは……」

「あっそ」


 ガタガタと扉が開いたり、水が流れたり、ビニール袋がこすれ合う音が聞こえる中、ぼーっとその後ろ姿を眺める。桐椰くんは何をしてるんだろう……。キッチンに立ってるんだから、まぁ、料理かな。なんで料理してるんだろう。さっき、ご飯がどうとか聞かれたっけ。ということは私のご飯かな……。
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