大丈夫、浮気じゃないから。
 それでも、どうにも私には可愛げがない。いまどき自サバ(・・)女なんて蔑称があるけれど、自称でもサバサバを気取れるならいいと思う。私は他サバ女だ。みんなが「サバサバしてる」と言うだけで、本当の私の中身は、女々しさを見せることができないちっぽけなプライドでできている。

 だから、酔っぱらってもないのに酔っぱらったふりをすることなんて、プライドにかけてできない。それでも、たまには、目に見えて酩酊(めいてい)して、理性のないふりして言いたいことをぶちまけたい──。そんな気持ちでグラスを傾ければ、冷たい手に手首を掴んで止められた。


「……なに」

「やめましょ。顔、真っ赤ですよ。ほら脈も速いし」

「彼氏に心配してほしいからいいんだよ!」

「でも彼氏いないですよここに」

「……なんで松隆と飲んでんの私」

「失礼にもほどがある。先輩が連れてきたんでしょ。待ち合わせ場所での最初の一言は『あのクソ野郎』」

「……松隆。松隆に彼女がいなくて本当に良かった」


 グラスをテーブルに置くと松隆の手も離れた。でもその手を両手でガッシリと握りしめる。


「私の愚痴をこんなにもだらだら聞いてくれるのは松隆だけだよ! 松隆がいなかったらとっくに紘とはダメになっちゃってるよ! 今後も彼女は作らないで遊んでてね!」

「僕が特定の彼女作らないで遊んでるみたいな言い方、やめません?」

「違うのか……」

「違います。偏見もいいとこです」

「こんなにイケメンなのに……」

「イケメンなせいで、顔から入られることが多くて損してるんですよね」

「世の中のブサメンが聞いたら刺し殺したくなるようなセリフだね。TPOを(わきま)えて発言するように気を付けなよ」


 それから、松隆に時々止められながら、カシオレを飲みきった。たった2杯のアルコール度数3パーセント程度のお酒は私を酷い頭痛に(おとしい)れるのに充分だ。可愛げのない性格に可愛げのある体質なんて笑ってしまう。私と松隆でいつも通り6対4の割合でお金を出して、居酒屋を出た。


「ごちそうさまです。半分出しますって言ってるのに」

「いーじゃん、可愛い後輩の前だと見栄はりたいし。あと愚痴代」

「それもそうですね」

「否定してよそこは」


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