大丈夫、浮気じゃないから。
 そしてその恰好の茉莉の横にいたのは……、紘ではなくて、知らない男子だった。


「おつかれさま……」

「お疲れ様でーす」


 売上に貢献しに来たかのように、茉莉はその男子と一緒にタピオカのメニューを指差して「なに飲む?」「タピオカって一種類しかないんだと思ってた」と話している。

 黒い髪に黒縁眼鏡。グレーの迷彩っぽいティシャツにネイビーのジャケットを羽織り、ただの黒いスラックスをはいている。しゃれっ気のない、どこにでもいそうな人だった。

 なんとなく、お兄さんではなさそうだ。弟には……見えない。茉莉は他にもサークルに入っているから、そっちの知り合いだろうか。経済学部の知り合いなら紘も一緒にいるはずだし……。高校の同級生とか? それにしたって、2人で来るのは……。


「え、つか富野さん、それどちら様ですか?」


 私が気にしていたことを、山科はこともなげに、しかもなんの含みもなさそうなトーンで尋ねる。

 茉莉は「あー、こちらですね」と、えへへとでも聞こえてきそうな様子で。


「数日前から付き合ってる彼氏でございます」

「え!」


 ──彼氏、だと。


「え、マジすか!?」

「ちょっと待って待って!? 聞いてない!」


 わっ、とタピオカ販売そっちのけで屋台の中にいたメンバーが一斉に顔と意識を向けた。私だって思わず声が出た。

 あまりのリアクションの大きさに、茉莉の──彼氏は少し照れくさそうな顔で「あ、どうも……とか言ったほうがいいのかな」と頭の後ろに手を当ててみせ、茉莉もはにかみながら「いやあ、みんな、学祭準備で忙しそうでしたので」と同じ仕草をする。


「え、そもそも誰すか? 2回生すか?」

「あー、えっと、彼は神戸の経営の2回生で」

「高校の同級生なんです」


 ……高校の同級生。同い年。他大学。


「えー、マジすか」

「じゃあ高校の時から仲良かった感じ?」

「まあ、そんな感じで。夏に帰省したときに久しぶりに会ってって感じで、以来、ちょくちょくと」

「教えてくれればよかったのに」

「どうなるか分からないから、ちょっと言えなくて」

「うちのサークルの二大美人が1人彼氏持ちかー」

「いやいや、みどりちゃんのほうが断然可愛いから、私なんて」


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