大丈夫、浮気じゃないから。
「そういえばサッカーの模擬店、何出してるの」

「ミックスジュース。だから半分競合なんだよ」

「あれま。まあ、タピオカジュースなんて飲んだら喉が渇くし、案外ウィンウィンなんじゃない」

「それもそっか」


 そんな話をしていると、紘のサークルの模擬店に差し掛かった。看板には歴代のワールドカップで使われたボールが描かれていて、メニューも「フランスM杯 いちご+ソーダ」「韓国M杯 カシス+オレンジ」「ドイツM杯 パイン+ぶどう」と歴代のW杯を意識しているのがうかがえた。


「ちゃんとサッカーなんだ」

「TKCってなんかに合わせてたっけ」

「いやー、なにも。でも今年の3回生は理学部が席巻してるから、メニューに書かれてる成分がやたら詳しい」

「客足遠のきそうだな」

「それが結構売上いいらしいよ」


 松隆の顔のお陰で──と言いそうになって慌てて口を(つぐ)んだ。それは、紘が松隆を嫌いだからではなかった。


「あ、大宮さんお疲れさまでーす」


 サッカーの模擬店の中から「っす」といくつもの野太い声が挨拶した。売り子には女子もいて「おつかれさまです」と笑顔を向けてくれる。黒目が大きくて、色白で小柄な子だった。


「おー、JD、おつかれ」

「あー、この子がJD……」


 紘から話は聞いていた。1回生のマネージャーで、 (今日はティシャツ姿だからそうでもないけど)世間がイメージする女子大生の服装を忠実に再現しているのでJD。とんでもなく雑なネーミングだったけれど、他のマネージャーも、野球部に彼氏がいるからベースボールマン、略して「ベボマ」、マクロ経済の単位を落としたので「マクロ」……男ばっかりのサークルなんてそんなものか、なんて無理矢理自分を納得させたことがある。


「大宮さんの彼女さんですよね?」

「……そうです、はじめまして」

「お噂はかねがね、聞いております」

「めっちゃ仲良いすよね」


 JD (ちゃん?)とその隣の大柄な1回生に言われて、笑ってごまかした。


「あ、コイツ、例の小野」

「あー、君が小野くん」

「え、なんで知ってんすか」

「異常な方向音痴で、先輩達に山の中に置き去りツアーをされたっていう……」

「その紹介はひどいっすよー」


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