大丈夫、浮気じゃないから。
 他のメンバーが「ああ、例の、石田とどっちが方向音痴か賭けたやつ」「どっちが勝ったんだっけ?」と話を始めて「両方脱落だろ」と紘がその輪の中に入る。ポツン、と私が置き去りにされていると、JDちゃんに「大宮さんの彼女さん」と呼ばれる。


「ずっと聞きたかったんですけど、どうやって大宮さんと上手くやってるんですか?」


 ……ここ3ヶ月の私の悩みを知っているのかと思えてしまうくらい、あまりにもピンポイントな質問で、思わず笑ってしまいそうになった。同時に、紘はサッカーサークルでそんな認識のされかたをしているのか、なんて。


「どうやって、って」


 そもそも上手くやれてなんかないですと答えようとして「だって大宮さんと彼女さん、めちゃくちゃ仲良いですよね」受け取り方を間違えていたことに気付いた。


「……えっと」


 そういえば、さっきの小野くんの第一声だって「仲良いですよね」だった。

 この子達の前で、紘は、私との関係をどう話しているのだろう。


「だって大宮さん、本当にすぐ彼女さんの話するんですよ」


 内緒話のように、JDちゃんは口の横に手を当てながら、紘に視線だけを向ける。


「いいお店教えてもらったら、大体『この間彼女と行ったけど』ってついてますし。飲み会の帰りだって大体『彼女のとこ帰る』って行っちゃいますし、合宿のときもコソコソ彼女さんに連絡取ってたりするじゃないですか」


 ……紘が、外でどれくらい、どんなふうに私の話をしているのか、私は知らない。でも、確かに、デートのときはいつも紘がお店を調べてくれる。飲み会の帰りにうちに来るのも、合宿中に「風呂あがった」なんて時間ができたら連絡をくれるのも事実だ。


「私、前の彼氏に浮気されたんですよね」


 その単語に、自分の顔が強張るのを感じた。


「だからソッコー別れたんですけど。大宮さんと彼女さんは、そういうことなくて円満そうでうらやまいしなって」


 なんの含みもない、本当に羨ましがっている声音だった。

 実際、いまJDちゃんが挙げた事実だけを聞けば、誰だって“仲が良いカップルだ”と思うだろう。その事実は、それでも私の彼女としての優先順位を裏付けるのだから。

 ただ、その優先順位は、今でも変わっていないだろうか?

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