大丈夫、浮気じゃないから。
模擬店を離れた後「JDとなに話した?」紘はそんなことを言った。探りを入れる声音ではなくて、ただの世間話のようなトーンで。
「んー、なんか彼氏と別れた話」
「あー、アイツ浮気されたんだってな。ま、ろくに連絡とってなかったんだろ、仕方なくね」
「……浮気されても仕方ないってこと?」
「というか、両方とも冷めてたんじゃねーのって感じ。彼氏、東京で遠距離だしな」
浮気。遠距離。
「……遠距離といえば、茉莉、彼氏できたんだってね」
連想しても不自然ではないキーワードを拾って、昨日からずっと聞きたくて仕方がなかったことを、会話に滑り込ませた。
紘の顔色は変わらない。
「ああ、高校の同級生だろ? 昨日、津川から聞いたわ」
沙那から聞いていたのか……。それなら、いま紘の顔色が変わらないことはプラスにもマイナスにも働かない。
「びっくりだよねー、全然知らなかった」
「俺もマジでびっくりした。津川も全然聞いたことがなかったって」
「え、知らなかったの」
「富野、結構肝心なことは言わないタイプじゃん。見た目より強かだろ」
そんなことを言われたって、私より紘のほうがずっと茉莉と仲が良いでしょ。内心だけでそう毒づいた。
「まー、津川にバレたくなかったんじゃね」
「……言い触らされるから?」
「だろ。高校の同級生ならアイツの情報網も届かないとは思うけどなー」
紘は、茉莉の彼氏のことにコメントをしない。もし、茉莉のことが好きだったのなら、紘の性格からすれば、恰好悪く、無様なほどに、茉莉にしがみつく言動があってもおかしくないはずなのに。
「……顔とか、知ってる? 茉莉の彼氏」
「知らねーよ。富野に写真見せろよーって言ったけど送ってこねーし」
送ってこない、ということはLINEで連絡をしたのだろう。ということは、昨日から今日にかけて、紘と茉莉は会っていない。
「私、昨日模擬店の前で見たんだけど」
「ああ、マジ? どんなヤツだった?」
食いついてくるのに、不自然さはない。たとえ好きではなくても、2人で映画に行くくらい仲が良い相手の恋人を知りたがることに、不自然さはない。
「なんかこう、ひょろっとしたタイプ? わりと地味だったかも」
「へーえ」
必要以上の食いつきは見せない。
「んー、なんか彼氏と別れた話」
「あー、アイツ浮気されたんだってな。ま、ろくに連絡とってなかったんだろ、仕方なくね」
「……浮気されても仕方ないってこと?」
「というか、両方とも冷めてたんじゃねーのって感じ。彼氏、東京で遠距離だしな」
浮気。遠距離。
「……遠距離といえば、茉莉、彼氏できたんだってね」
連想しても不自然ではないキーワードを拾って、昨日からずっと聞きたくて仕方がなかったことを、会話に滑り込ませた。
紘の顔色は変わらない。
「ああ、高校の同級生だろ? 昨日、津川から聞いたわ」
沙那から聞いていたのか……。それなら、いま紘の顔色が変わらないことはプラスにもマイナスにも働かない。
「びっくりだよねー、全然知らなかった」
「俺もマジでびっくりした。津川も全然聞いたことがなかったって」
「え、知らなかったの」
「富野、結構肝心なことは言わないタイプじゃん。見た目より強かだろ」
そんなことを言われたって、私より紘のほうがずっと茉莉と仲が良いでしょ。内心だけでそう毒づいた。
「まー、津川にバレたくなかったんじゃね」
「……言い触らされるから?」
「だろ。高校の同級生ならアイツの情報網も届かないとは思うけどなー」
紘は、茉莉の彼氏のことにコメントをしない。もし、茉莉のことが好きだったのなら、紘の性格からすれば、恰好悪く、無様なほどに、茉莉にしがみつく言動があってもおかしくないはずなのに。
「……顔とか、知ってる? 茉莉の彼氏」
「知らねーよ。富野に写真見せろよーって言ったけど送ってこねーし」
送ってこない、ということはLINEで連絡をしたのだろう。ということは、昨日から今日にかけて、紘と茉莉は会っていない。
「私、昨日模擬店の前で見たんだけど」
「ああ、マジ? どんなヤツだった?」
食いついてくるのに、不自然さはない。たとえ好きではなくても、2人で映画に行くくらい仲が良い相手の恋人を知りたがることに、不自然さはない。
「なんかこう、ひょろっとしたタイプ? わりと地味だったかも」
「へーえ」
必要以上の食いつきは見せない。