大丈夫、浮気じゃないから。
 それから、紘は、私を慰めつつ、普通に振舞った。普通でなかったことといえば、フィナーレのビッグファイアを見る間、サークルのメンバーでも経済のメンバーとでもなく、私の隣にいた点くらいだった。誰かに見られるときは、私の隣にはいたがらないのに。

 学祭の打ち上げに、紘はこなかった。もともと、サッカーのほうの打ち上げに顔を出す予定だったから。

 その代わり、学祭の打ち上げでは茉莉と隣の席になった。同じテーブルの先輩も同期も「彼氏できたんだって?」「どこで知り合ったの?」と茉莉を質問攻めにしていた。茉莉から得た情報によれば、その彼氏とは、もともとお互いを意識していたけれど、大学がバラバラになってしまったので自然消滅してしまっていたとのことだった。


「茉莉のその財布バッグ、めっちゃかわいくない?」


 その質問攻めもひと段落したくらいで、同期が茉莉のカバンを指差してそんなことを言った。茉莉は「ありがと! お気に入りなんだよね」と財布バッグを両手で掲げてみせた。白地にクリスマスローズをモチーフにしたような花柄が点々と描かれていた。


「新しく買ったの?」

「これはねー、誕生日に」

「彼氏がくれたんだ!」

「違う違う、彼氏じゃなくて、大宮くん達がお祝いしてくれたんだよ」


 ……結局、紘が、経済の友達と茉莉の誕生日を祝ったのは知っていた。茉莉は悪意なくはにかむ。


「大宮くん、沙那ちゃんに聞いて、私の好きなシリーズのバッグをリサーチしてくれてて。それで、経済のみんなで買ってくれたんだって。できる男だよね、大宮くん」


 紘は、私の誕生日にも、私の好きなアクセサリーブランドのネックレスを贈ってくれた。

 私の誕生日も、茉莉の誕生日も、両方とも、好きなブランドをちゃんとリサーチしてから、プレゼントを。

『プレゼントしてる時点で、9割方は黒だと思います』

 ただのプレゼントが黒なら、リサーチありのプレゼントは、真っ黒じゃないか。

 学祭の打ち上げの後、家に帰ると、紘からLINEが来ていた。「帰ってる? 3次会行こうか迷ってる」とあったから「もうお風呂入ったから、寝ちゃうよ」と返しておいた。私はそのままベッドに倒れ込んだ。

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