大丈夫、浮気じゃないから。
「一緒に買いに行けば?」

「……紘の誕生日のとき、そうしようかって提案したんですけど、サプライズ感がほしいっていわれたんですよ」


 別にいいといえばいいのだけれど、紘は持ち物に対するこだわりが強いので、下手にはずすくらいなら一緒に選んでほしかった。ただ、誕生日プレゼントのキーケースはそれなりに気に入っているらしい。いつも使っているのを見ればわかった。意外と気を遣うタイプなので、彼女に対する気遣いといえば気遣いかもしれないけど。


「男はサプライズが好きだからなあ。外す危険があると分かっててもサプライズで渡すことに(こだわ)りたいのは男のエゴかもな」

「渡される側ですよ、紘は」

「だから大宮自身もそうなんだろ。危険があってもいいからサプライズがいい」

「……そういうもんですかね」

「そんなもんだって。話は戻るけど、空木、松隆となんもないんだよな?」


 ……何もない。松隆と何かがあったわけではない。ただ私が一方的に勘ぐってるだけだ。


「……なにもないです」

「松隆の家で鍋しようって話してんだけど、来る?」

「あ、すみませんバイトなんで」

「まだいつか言ってねーだろ」


 ほんの冗談に聞こえるように返事をしたつもりだったのだけれど、本気だと分かっているような反応だった。


「学祭の後から全然サークル来ないし、なにかあったんだろ。先輩が聞いてやろうか」

「だから別になにもないですけど」

「今まであんなに仲良かったのに、また大宮に何か言われた?」


 紘が松隆のことを注意したのは、10月の一度きりだ。以来、紘は松隆のことに触れない。


「紘は何も言いませんけど」

「けど?」

「……やっぱり、松隆と私は仲が良すぎるんじゃないかなって」

「そんなの今更だろ。この間も話したじゃん、空木と松隆って一緒にいるのが自然過ぎるんだって」


 セリフのとおり、本当に今更何を言ってるんだと言いたげだった。


「それでなんもないんだから、気にすることないだろ。先輩後輩の仲の良さの範囲内だって」


 “なんもない”──烏間先輩は、松隆から何も聞いていないのだろうか。


「それは……そうなんですけど……」

「松隆といえば、今出(いまで)さんが今月いっぱいでサークル辞めるってさ。今月いっぱいってか、もう来ないだろうけど」

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