大丈夫、浮気じゃないから。
「え、なんでそれと松隆が?」


 1回生女子がサークルを辞める理由が一人の1回生男子と結びつくとなれば、理由は少なくない。予想はできていたけど、つい先を促してしまった。


「学祭の後に告白してフラれたんだってさ」

「……まあ、仕方ないですね」


 今出さんは、もともとあまりサークルに顔を出しているタイプではなかった。そんなサークルと松隆と顔を合わせる気まずさとを天秤にかけ、サークルを切り捨てるのは、ごく自然な帰結だった。


「もともと松隆目当てで入ったようなもんだろ。合宿でやめるんじゃねーかなと思ってたから、やめるって意味では遅かったな」

「……松隆、今出さんのことフッたんですね」

「ん? ああ、意外?」

「いえ、意外ではないんですけど……」


 正直にいえば、1回生の今出さんは、特別可愛いわけでもなく、ごく普通だった。それこそ男子会をすれば名前は挙がらないだろう。松隆と特別仲が良い印象もなかった。


「……松隆、彼女作らないのかなと思って」

「松隆に彼女ができれば、そりゃあ大宮は安心するだろうな」


 不意に6月くらいのたこぱを思い出した。酔っぱらった喜多山先輩が「松隆、空木が推しメンなんだって」なんて言い出した夜。


「でも、松隆は彼女できないだろうなー。そもそも、俺としては今出さんが松隆に告白したっていうのが意外過ぎた。よく告ったなって」

「なんでですか?」

「空木と松隆が仲が良いって知ってるからだよ」


 幾度(いくど)となくされた指摘であるはずなのに、一瞬、緊張で息が止まってしまった。


「多分、松隆と一番仲が良い女子って空木だろ。1回生の女子よりも。ってことは、1回生女子からはこう見えるわけだ、あんなに仲のいい空木のことでさえ松隆はただの先輩としか思っていないんだから、空木ほど仲良くない自分達は松隆の眼中にない──ってな」


 誰がどう見たって、私と松隆は仲が良すぎるじゃないか、と──。


「……先輩後輩として仲が良いのと、恋愛感情があるのかないのかは、また別じゃないですか」

「少なからず延長線上にあるだろ?」


< 118 / 153 >

この作品をシェア

pagetop