大丈夫、浮気じゃないから。
 駅に着いた後、紘からの連絡に「ごめん、今日バイト。21時くらいに帰る」と返事をすれば、バイトを終えると「その後行っていい?」と返事がきていた。断る理由はなくて「いいよ」と短く返事をした。

 紘からの返事は早くて「行くー。いまどこ?」「もうすぐ駅」「迎え行く」なんて遣り取りをしているうちに、家に帰る前に合流してしまった。


「お疲れ」

「ありがと。紘、今日はバイト入ってないの?」

「中旬以降が忘年会の3次会でめちゃくちゃ忙しいから、いまは嵐の前の静けさって感じ。生葉は?」

「こっちは冬期講習で12月いっぱいはガッツリ入る予定」

「……クリスマスは?」

「バイト入れちゃった。人足りないみたいだから」


 本当は入らずに済ませることもできなくはなかったけれど、人が足りないらしいのは事実だし、そこまでして紘とクリスマスを過ごす意味は見いだせなかった。


「紘もクリスマスバイトでしょ?」

「まあ、ずらせんことはないけど、生葉がバイトならバイトするか」


 あーあ、とでも聞こえてきそうな声音だったけれど、ごめんの一言が言えなかった。


「晩飯は?」

「バイト前に軽く食べた。まさか紘、待ってた?」

「いや、俺も食ったんだけど、聞いただけ」


 家に帰って、テレビをつけて、流行りのドラマを「これなんだっけ」「刑事ドラマ。春にもやってたやつのシーズン2」私だけ見て、紘はその間隣で一緒に見たりスマホを見たり、私にじゃれてみたり。


「紘、お風呂出たよ」

「んー」


 私と交代で紘がお風呂に入った間にスマホを見る。松隆とのLINEは「面白かったよ、ありがと」という昼間の連絡で止まっていた。スリープにしてドライヤーを取り出しながら、真っ暗なディスプレイを見つめる。

 学祭が終わって1週間と少し。もともと松隆との連絡は、用事があればそのついでに雑談をする程度だったし、特別疎遠になったわけではない。……それなのに連絡がないのが気になるのは、なぜか。

『良くも悪くも予想の範囲内でした』

 ……なにが良くて、なにが悪いのか。それが分からないせいなのか、頭の中であの時の松隆の顔とセリフが何度もリフレインする。

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