大丈夫、浮気じゃないから。
 髪を乾かした後、ぽふんとベッドに倒れ込んだ。スマホの画面は真っ暗なまま。松隆から続きの連絡はない。『Good bye my...』の本を返したのだから「|魔女(ラシェル)の決断、どう思いました?」くらい言ってくれてもいいのに。

 不意に、紘のスマホがブーッと振動した。

 そういえば、紘は一度もスマホの画面を隠そうとしたことはなかったな……。浮気をしている男にありがちでそして当然の行動といえば、スマホでの連絡を隠そうとすることだけれど、紘はいつだってテーブルの上にスマホを置きっぱなしだ。通知もディスプレイに全て出るし。その意味では……やっぱり、茉莉とは決定的な浮気まではなかったんだろうな、やましいことがないからスマホをこうして無防備にできるわけだし……。

 そんなことを考えながら紘のスマホに視線を遣った。見ようと思ったわけではなく、音がした方向を見てしまった、その程度のことだった。

 ディスプレイに表示されたのは「津川沙那:ちゃんと愛されてるって分かってよかったじゃーん」。

 それは、浮気をほのめかすメッセージではない。なんなら、おそらく私と紘の関係に言及したものだった。

 でもなんだ? そのメッセージには、奇妙な違和感が湧く。“ちゃんと愛されてるって分かる”って、どんな話の流れで出てくるんだ? 紘は、どんな状況から、私に“愛されてる”と確認するのだろう。ベッドから半分だけ体を起こした状態で、その意味を考えて動けなくなってしまった。そんなことをしているうちに、紘のディスプレイはまた暗くなった。

 じっと見つめていても沙那からの追撃はない。そうしてスマホを見守っているうちに、紘がお風呂から上がってくる。


「あったまったー。冬のお風呂好き」

「冬のお風呂と冬のお布団は至高だからね」

「それな」


 言いながら、紘が私の横に転がる。スマホを手に取ることはせず、ただのんびりと、風呂上りの熱気を冷まそうとするように転がっている。

『ちゃんと愛されてるって分かってよかったじゃーん』

 そのメッセージが、脳内で沙那の声で再生された。なんなら、沙那が目を細めて口角を吊り上げながらポンッと紘の肩を叩く、そんな様子まで容易に想像できた。

 愛されてるって分かる。愛されてると確認できる。対外的に分かる愛、恋。内心に隠れているそれを確認する方法、は。


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