大丈夫、浮気じゃないから。
クリスマスイブとクリスマス、両方ともにバイトを入れた。紘も「生葉はいないし、人手は足りないし」とバイトを入れていた。それ以外の日もクリスマスデートとして会う予定は立ちそうになかったので、クリスマスプレゼントのマフラーは先に渡した。紘からは小ぶりな赤色のバッグを貰った。ちょうどいいのでサークルの忘年会へ持って行くことにした。
忘年会会場の居酒屋は広い座敷で、6人掛けのテーブルがいくつも並んでいた。メインメニューの鍋がテーブルの真ん中に置かれていて、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに具が積まれている。
「おーす、おつかれ、空木」
座敷を入ってすぐのところに喜多山先輩が立っていて「空いてるとこ座ってー。ちなみに俺は武田の隣」と入ってすぐのテーブルを指差した。でも別のテーブルから「空木ィ、こっち来いよ」と烏間先輩に呼ばれたので「あ、私あっち行くんで」「俺と烏間とどっちが大事だ!」なんて言われながら烏間先輩のテーブルについた。烏間先輩の隣には丸太先輩も座っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ。寒いなー、早く鍋食いたい」
「お、空木ちゃん、そのマフラー、クリスマスプレゼント?」
「違いますよ」チェック模様のマフラーを外しながら、丸太先輩に苦笑して「前から持ってたヤツです。烏間先輩のマフラーは新品でしょうけどね」
「目敏いな、空木」
「烏間の惚気話はええわ、忘年会と一緒に忘れたいわ」
チッ、と丸太先輩は男らしく舌打ちした。
「他、誰来るかな」
「1回生呼ぼうぜ、1回生」
「先輩が雁首揃えてるとこに呼んでも可哀想やろ。アンタ誰と仲良いん」
「1回生だと松隆かなぁ」
心臓が跳ねた。ドクンドクンと音がうるさくなり始める。
「あ、茉莉ちゃんおるやん。茉莉ちゃーん、こっち座ろー」
「はーい!」
隣にやってきた茉莉は、例の財布バッグを身に着けていた。お気に入りだというのは本当らしい。そんなことも目敏く見ながら「茉莉、コートかけようか」「ありがとー」と立ち上がって壁のハンガーに向き直っていると、背中で「松隆ー、こっち座れよー」「それ、パワハラですよ」という声が聞こえて、ドクンと更に心臓が大きく跳ねた。
振り向けば「来るならパワハラとか言わなきゃいいのに」「パワハラの結果、来るんですよ?」と烏間先輩の隣に松隆がやってきたところだった。
「……松隆、コートかけようか」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ。自分でやるんで」
グレーのマフラーと、ダークネイビーのピーコート。それを脱ぎながら、松隆は私の手からハンガーを受け取った。
「久しぶりですね」
「え?」
さっさと座って知らんぷりをしてしまおうと思っていたのに話しかけられて、戸惑いのあまり大きな声が出た。でも松隆のほうこそ知らん顔だ。
「最近、サークルも来ないんで。随分長い間会ってないなと思いまして」
「……まあ、冬期講習が忙しかったから」
「それはまあ、そうなんでしょうけど」
他に理由があるんじゃないですか? そう聞こえた気がしたけれど無視した。
松隆は烏間先輩の隣に収まった。茉莉の隣、松隆の前には1回生の馬口が座った。
「今年も1年、お疲れさまでしたー!」
広い座敷で、部長が声を張り上げる。グラスを掲げ、「カンパーイ」という音頭に合わせて唱和した。
忘年会会場の居酒屋は広い座敷で、6人掛けのテーブルがいくつも並んでいた。メインメニューの鍋がテーブルの真ん中に置かれていて、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに具が積まれている。
「おーす、おつかれ、空木」
座敷を入ってすぐのところに喜多山先輩が立っていて「空いてるとこ座ってー。ちなみに俺は武田の隣」と入ってすぐのテーブルを指差した。でも別のテーブルから「空木ィ、こっち来いよ」と烏間先輩に呼ばれたので「あ、私あっち行くんで」「俺と烏間とどっちが大事だ!」なんて言われながら烏間先輩のテーブルについた。烏間先輩の隣には丸太先輩も座っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ。寒いなー、早く鍋食いたい」
「お、空木ちゃん、そのマフラー、クリスマスプレゼント?」
「違いますよ」チェック模様のマフラーを外しながら、丸太先輩に苦笑して「前から持ってたヤツです。烏間先輩のマフラーは新品でしょうけどね」
「目敏いな、空木」
「烏間の惚気話はええわ、忘年会と一緒に忘れたいわ」
チッ、と丸太先輩は男らしく舌打ちした。
「他、誰来るかな」
「1回生呼ぼうぜ、1回生」
「先輩が雁首揃えてるとこに呼んでも可哀想やろ。アンタ誰と仲良いん」
「1回生だと松隆かなぁ」
心臓が跳ねた。ドクンドクンと音がうるさくなり始める。
「あ、茉莉ちゃんおるやん。茉莉ちゃーん、こっち座ろー」
「はーい!」
隣にやってきた茉莉は、例の財布バッグを身に着けていた。お気に入りだというのは本当らしい。そんなことも目敏く見ながら「茉莉、コートかけようか」「ありがとー」と立ち上がって壁のハンガーに向き直っていると、背中で「松隆ー、こっち座れよー」「それ、パワハラですよ」という声が聞こえて、ドクンと更に心臓が大きく跳ねた。
振り向けば「来るならパワハラとか言わなきゃいいのに」「パワハラの結果、来るんですよ?」と烏間先輩の隣に松隆がやってきたところだった。
「……松隆、コートかけようか」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ。自分でやるんで」
グレーのマフラーと、ダークネイビーのピーコート。それを脱ぎながら、松隆は私の手からハンガーを受け取った。
「久しぶりですね」
「え?」
さっさと座って知らんぷりをしてしまおうと思っていたのに話しかけられて、戸惑いのあまり大きな声が出た。でも松隆のほうこそ知らん顔だ。
「最近、サークルも来ないんで。随分長い間会ってないなと思いまして」
「……まあ、冬期講習が忙しかったから」
「それはまあ、そうなんでしょうけど」
他に理由があるんじゃないですか? そう聞こえた気がしたけれど無視した。
松隆は烏間先輩の隣に収まった。茉莉の隣、松隆の前には1回生の馬口が座った。
「今年も1年、お疲れさまでしたー!」
広い座敷で、部長が声を張り上げる。グラスを掲げ、「カンパーイ」という音頭に合わせて唱和した。