大丈夫、浮気じゃないから。
「インカレのほうにいた女子で、2回生だっけ? 1年半もあれば誰かの彼女にはなってそうだけどな」

「だからって先輩の元カノとは思わないじゃないですか!」

「そもそも先輩とその元カノはどうやって知り合ったの」

「……先輩はその彼女と別れて気まずくてサークルやめたらしいです」

「それはお前の調査不足だわ」


 笑い飛ばされた馬口は「そういえば、最近気まずくてサークルやめたといえば今出さんがいますよねえ!」とわざとらしく声を張り上げた。当人でもないのに、なぜか私がビクリと肩を震わせてしまった。そっと松隆を盗み見ると、平然とリンゴジュースを飲みながら「いない人間のことをあれこれ言うのはどうかと思うけど」。


「お前! 俺を売ったくせに!」

「なあ、松隆ってなんで彼女作らんの?」

「なんでと言われても」


 不思議そうな丸太先輩に、松隆は眉を吊り上げる。茉莉も激しく頷いた。


「本当に、松隆くんはイケメンですよね。学祭の軍服姿もめっちゃくちゃかっこよかったですからね!」


 学祭の写真は、サークルのグループラインに上がっていた。


「あー、あの写真な。あれやばかったわ、1枚いくらで売れるんやろおもた」

「ちょっと、人の顔を売らないでくださいよ」


 私は、怖くて、学祭の写真を見ることができていない。


「でもほんまにめっちゃ顔いいやんな。彼女作り放題やん」

「彼女ってそんなに大量に作るもんでしたっけ」

「いやでも、マジ、僕もそれは思ってたんすよ!」馬口がすかさず食いついて「コイツ、マージで女子に興味示さないですからね! もしかして山科とデキてんのかなってくらい、マジで興味がない!」

「まさか。ちゃんと興味は示すよ」

「え、じゃあどんなんが好みなん」

「えー、まあ、話が合う人ですかね……」

「そんなんいくらでもおるやろ、絞れてないで」

「松隆、幼馴染いるんじゃないっけ」


 その言葉が口をついて出てしまい、テーブルのメンバーの顔が一斉にこちらを向いた。当人の松隆と烏間先輩は目を点にし、馬口に茉莉、そして丸太先輩は格好の酒の(さかな)に目を輝かせた。


「もしかして幼馴染にずっと片想いしてる!?」

「マジその世界線に生まれてぇー!」

「一途やわあ。顔がイケメンで中身もそんなイケメンでどうすんねん」

< 128 / 153 >

この作品をシェア

pagetop