大丈夫、浮気じゃないから。
「僕、何も言ってなくないですか?」

「幼馴染って、この間、浪速大の学祭に一緒に行ってたヤツ?」


 ニヤニヤしながらそんな助け船を出したのは烏間先輩だ。「なにそれ?」と丸太先輩が身を乗り出す。


「浪速大の学祭行ったら、松隆に会ってさ。幼馴染と一緒に来てたんだよ。それかなと思って」


 浪速大学の学祭に幼馴染と一緒に行った、その幼馴染のお兄さんが浪速大学だから、その幼馴染には夏休みにも会っていた──どれも松隆の口から聞いたことがある話だった。

 イヤな情報をバラされたと思ったのか、松隆は顔をしかめる。


「烏間先輩……」

「どんな子? 可愛い系?」

「まあ、可愛い系では?」

「お前イケメンのくせに可愛い幼馴染までいるのか!」

「料理上手なんじゃないの」また、その幼馴染について知っているだけの情報が口をついて出てしまって「家事か料理かにうるさい幼馴染がいるって言ってたじゃん」


 途端、じっと松隆に見られた。その探るような目に身構えたけれど、松隆は何も言わず……。ただ馬口が「うらやましい……」と呟いただけだった。丸太先輩が「え、で、どうなん、料理上手な子のことなん?」と促す。


「いや、まあ、その幼馴染ですけどね……」

「マジか。なんで落とせへんの。もう彼氏おるん」

「いやいないですけど」

「松隆の顔なら押し倒したら楽勝やろ」

「丸太先輩、品がない」

「お上品な顔立ちしてるもんな、松隆」

「そういうことじゃないでしょ」


 松隆は私を見ない。ただ、私が話していないから、私を見ていないだけ。

 それなのに、まるで顔を背けられているかのような気がしたのは、気のせいだろうか。

 そこから暫く、鍋をつつきながら、年内の出来事のあれやこれやを忘年会らしく振り返った。酒豪の丸太先輩がいるせいでテーブルの酒は進み、烏間先輩でさえうっすらと顔を赤くするほど飲んでいた。たまに喜多山先輩が乱入して更に酒を勧めていた。

 1次会でそんな有様になってしまったので、2次会はもっと混沌としていた。人数が減ったとはいえ、いるのは酔っ払いばかり。席だって、人数どおりにお行儀よく座っていたのは最初だけ。座敷内は混沌(こんとん)としていて、6人席に4人しかいない、逆に6人席なのに8人いる、なんて具合に人が入り乱れている。

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