大丈夫、浮気じゃないから。
 紘の姿を探せば、壁際のテーブルで、所狭(ところせま)しと人が集まった中にグラス片手に座っていた。隣には沙那がいた。


「大宮と空木が付き合ったときはびっくりしたよなあ」


 不意に自分の名前が話題にのぼり、慌てて今いるテーブルに向き直る。2次会なんて、結局仲が良いもの同士で集まってしまうので、テーブルにいるのは喜多山先輩に烏間先輩、みどりと松隆。山科がいないこと以外、大体いつもどおりのメンバーだ。

 喜多山先輩は「今でもあのときの衝撃が忘れられないよなあ」と続け、烏間先輩も「まあ、空木から話は聞いてたけど、付き合うとは思わなかったもんな」と頷いた。


「え、なんでですか」

「んー、なんとなく」


 明確に言語化できるけど誤魔化した、そんな口振りだった。


「そもそもなんで付き合い始めたんですか?」


 今まで散々口を出してきたくせに、松隆の声音からは“早く別れればいいのに”なんてものはうかがえなかった。


「空木から告ったんだよな?」


 そのせいで、喜多山先輩の問いかけに「……そうですね、二条城に出かけた帰りに……」少しだけ詰まった。


「え、で、大宮はなんて返したんだよ」

「……『俺も空木はいい友達だと思ってるよ』と」

「本当に、そういうところだよなあ、大宮!」


 珍しく酔っぱらっている烏間先輩が声を上げて笑った。普段の烏間先輩ならそんなふうに大声で笑ったりしないだろう。松隆は「本当にそんな返事するバカがいるんだ……」とドン引きしているし、みどりはまるで自分のことのように悲痛そうに顔をゆがめた。


「そこからちゃんと告白し直した生葉ちゃんはほんまに偉いよな……私やったらそれ聞いた瞬間、泣き崩れてるわ……」

「告白、しなおしたんですか?」

「……そりゃ、伝わってないと思えばしなおすしかないでしょ」

「伝わってないはずはないだろ、(とぼ)けてんだろ」

「先輩、やめてください。冷静になった私もそう思いましたけど、やめてください」

「で、そっからどうなった?」

「……告白しなおした結果『俺も前から好きだった』と」


 よかった! そう言いたげにガッツポーズさながら拳を握りしめるみどりとは裏腹に、烏間先輩は「意気地(いくじ)ないよなあ」と鼻で笑う。


(とぼ)けた挙句の便乗告白だろ。情けねー」

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