大丈夫、浮気じゃないから。
『津川に言っといた。人の彼氏に手出してんじゃねえ、いい加減にしろって』『その流れで聞いたけど、「私は大宮に試してみたらって言っただけですから」「実際にやったのは大宮ですからね」だって』『やっぱアイツどうしようもねーな、あんま気にすんな』

「というわけで、裏付け捜査は終了です」


 カタン、とスマホをこたつ机の上に置き、代わりにマグカップを手に取った。松隆は心底呆れた顔で「アホらし……」と呟く。


「どういう神経してるんですかね……カップルの関係を横から引っ掻き回すとか」

「分からん。性格が悪いとしか言いようがない」

「そもそも、津川先輩に生葉先輩との話を相談する大宮先輩もどういう神経してるか謎ですけどね。意図的人選ミスと言っても過言じゃない」

「それが全てのミスだよね。ま、乗せられた紘も紘なんだけど」

「ただそうなると、津川先輩が大宮先輩を唆した理由が謎ですね」

「ん、まあ、それは大して謎でもなんでもなく」それはいわば動機の話だけれど「沙那は松隆がお気に入りだからでしょ」

「はあ?」


 心底馬鹿馬鹿しそうな声に、また笑ってしまいそうになった。松隆は珍味でも食べさせられたような顔をしている。


「まさか、僕が生葉先輩と仲が良いから? あの人、そこまで馬鹿なんですか?」

「先輩に向かって馬鹿って言うんじゃありません」

「世界の中心が自分じゃないと満足できない人は間違いなく馬鹿ですよ」

「それはおいといて。とにかく、沙那が引っ掻き回した理由は、ただそれだけだよ」


 (ふた)を開けてみれば、なんて馬鹿馬鹿しいいたちごっこだったのだろう。しかもその原因が全然関係ない沙那の嫉妬だなんて、本当に──何度も何度も繰り返してしまうけれど──馬鹿馬鹿しいとしか言いようがなかった。

 これは推測だけれど、沙那が紘にキスをしたのは、ただのダメ押しか八つ当たりだろう。いつまでたっても別れない私と紘、それとは裏腹に仲の良さそうな私と松隆は、沙那にとっては期待外れの成果だっただろうから。

 沙那は松隆を気に入っている。当然、私が松隆と仲良くしているのが気に食わなかった。だから、私と紘の関係を横から引っ掻き回してみた。あわよくば別れればいいとでも思っていたのかもしれない。

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