大丈夫、浮気じゃないから。
「……もうひとつの思惑?」

「言いましたよね。僕の協力が優しさだと思います? って」


 ──協力を申し出てすぐのことだ。松隆の真意を探ろうとした私に、松隆はそう怪しく笑った。

 サッと自分の顔が青ざめるのを感じる。さっきまでの恥ずかしさによる熱が一気に引いていった。もし松隆にどこかで裏切られていたら、そう想像するだけでも怖かった。


「……でも、紘を陥れようとは考えてないって」

「考えませんよ」

「……私と紘が別れればいいとも思ってないって」

「ええ」

「……私を」一瞬詰まって「紘から奪おうと考えてるわけでもない、と」

「ええ、そうですよ」


 頬杖をついたままの松隆は、悠然(ゆうぜん)と微笑む。もう私の頭はパニックだ。


「……あんまり実効性がなさそうだけど……沙那がしっぺ返しを食らうところを見たかったとか」

「それは見たいですが、違いますね」

「……なに? 一体なに?」


 せいぜい考えられる現実的な可能性は3つ。紘への嫌がらせ、私を(もてあそ)ぶこと、そして……自意識過剰かもしれないけれど、私を紘から奪うこと。

 しかし、自分を嫌いな(せんぱい)への嫌がらせではない。それは早々に明言していたことだった。

 更に、私への嫌がらせでも……ない、はずだ。松隆にそんな裏表はないはずだし、恨まれたり嫌われたりする覚えがない。

 ……自意識過剰かもしれないけれど、そうなると、残る可能性は、松隆が私を異性として好きで、あわよくば紘から私を奪おうとしているということだ。でも、松隆は度々その可能性を排するような言動をとったし、いまなお否定している。しかも……、なにより引っかかっていたのは、幼馴染の存在だ。私ではない誰かを好きである可能性をにおわせ続けていた。しかも烏間先輩が存在を確認しているのだから、ブラフではない。つまり松隆が私を好きである可能性は限りなくゼロに近い。

 そうなると、排しきれないのは私への嫌がらせ……私を翻弄(ほんろう)して楽しむことが目的だったとしか──。

 困惑しきった私に、松隆はいつもの微笑を投げかけた。


「生葉先輩に僕を好きになってもらうことですね」


 は? ……理解できない文字列に、たっぷり三拍、脳が止まった。


「なに言ってんの? だって紘から奪おうとは考えてないとか……」


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