大丈夫、浮気じゃないから。
 考えた。もちろん考えた。松隆が私を好きな可能性だって考えた。だって浮気じゃない浮気をするなんて、そんなことに下心なしに協力するヤツがいるはずがない。でも松隆はそれを何度も否定したし、あたかも興味がないかのような口ぶりだった。だから違うんだと思っていたし、そう自分にも言い聞かせていた。


「……な……に、なんの冗談……そう、冗談でしょ、ドッキリで烏間先輩が出てくるとか」

「烏間先輩は僕が生葉先輩を好きだって知ってますけど」

「は!?」


 そんなこと聞いてない! いや聞くはずないのだけれど。目を()く私とは裏腹に、松隆は少しだけ苛立ったように、先輩にしてやられたとでも言いたげに苦虫を噛み潰した。


「結構序盤でバレたんですよね。ほら、生葉先輩と僕、鍋でも飲み会でも、大体セットで呼ばれてるでしょ。あれは烏間先輩によるいじりです。僕に対する」

「……私達と仲が良いからじゃ」

「それもありますけど、どっちかいうと面白がってのことです。それでもってあの人、僕と生葉先輩の仲が良いとかカップルみたいだとか平気で言いますしね」

「……それは紘があれこれ言うから」

「それも僕へのいじりです。忘年会で幼馴染の話をしたのだって、生葉先輩の前で僕がどう出るか試してたんですよ」

「そうだ! 幼馴染!」


 松隆が私を好きである可能性を排除する、もうひとつの要素。冗談みたいな告白を受けて、一瞬忘れていたけれど。


「松隆、その幼馴染にずっと片想いしてるんじゃないの!?」

「ああ、その話ですか」


 ふ、と小馬鹿にしたような表情をする。


「あれは男です」

「嘘!」

「本当です。料理上手で、家計にうるさく、まあどっちかいうと可愛い系の、男です」

「だって烏間先輩も学祭で会ったって……」


 松隆が彼女を作らない理由、つまり松隆の好きな相手は誰かという文脈だったのだから、当然にその幼馴染は女子だということがテーブルでは共通認識だったはずだ。だから烏間先輩が口を挟んだということは、当然に烏間先輩が会った“幼馴染”は女子となるはず。


「言ってましたけど、僕も烏間先輩も、それが女だとは一言も言いませんでしたよ?」


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