大丈夫、浮気じゃないから。
「電話してみますかね」

「そんな心配する? 大丈夫だろ」

「言い始めたの先輩ですよ!」

「つか空木、大宮と喧嘩でもしてんの?」

「…………なんですか、藪《やぶ》から棒に」


 紘は奥のコートでランダをしている。確かに今日、私と紘は会話はしていない。しかし、そもそも私と紘がコートで話しているのは稀だ。なにも勘繰る要素はない……はず。

 実際、烏間先輩がただカマをかけただけだというのはその笑みを見れば分かった。


「先輩……!」

「いやあ、実際心配してるんだよ。最近、空木は松隆といることが多いし、大宮は富野といることが多いし」

「……私ってやっぱり松隆と仲良すぎます?」


 つい数日前も紘に注意されたばかりだけれど、本当に、客観的にもそうなのだろうか。おそるおそる尋ねた私に、烏間先輩は「いや?」と肩を竦めてみせた。


「まあ、仲が良いなとは思うけど、普通だろ。俺と空木くらいの仲じゃない」

「で、ですよね!」

「大宮に言っとけ、男の嫉妬は(みにく)いって」

「別に、紘は嫉妬したわけじゃないですよ……」


 むしろ嫉妬ならよかったのに。溜息を吐きながら松隆に「学校来てる?」とLINEをした。松隆は既読が早いので、なんともなければすぐ返事が来るだろう。


「で、実際大宮と仲良くやってる?」

「……仲悪くはないですよ」

「間あったぞ、間」


 やはり何か知っているのか、烏間先輩はわざとらしい溜息を吐いた。


「付き合い立てはあんなに仲良かったのにな。今となっては大宮は富野と津川、空木は松隆と仲良くしてる始末」

「私と松隆の仲はいいじゃないですか、ただの先輩と後輩ですよ」

「ってことは大宮があの2人と仲が良いのには思うところがあるわけか」

「くっ……」


 微妙な言葉選びに現れた本心を簡単に読み取られた。この先輩の前では松隆と同じくらい隠し事ができない……。烏間先輩は、コートの外で休憩をしている茉莉と沙那を示しながら「ま、酒の席がいつも同じってなると心配だろうなあ」と同情してくれる。


「……そういうもんです?」

「まあ。特に津川は酒癖悪いし、男がいても男に手出そうだし、俺の彼女でも津川みたいなのがいるって知ったら心配するかもなあ」

「先輩の彼女、同心社ですっけ」

「ああ、うん」


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