大丈夫、浮気じゃないから。
「ん、だから全くされないわけじゃないけど、基本はない。というか、付き合ってからはないかも」うーん、と考えるように虚空に視線を投げながら「まあ、お互いのことよく分かってるし、信頼もしてるし。俺もだけど、相手が浮気するようなヤツじゃないって分かってるからな」


 ……私が嫉妬してしまうのは、紘のことを信頼していないからなのだろうか。

 そんなことを考えて黙り込んでしまうと、タイミングよくスマホが光った。視線を落とせば、松隆から「行ってないです」「今日は飲みにいけませんよ」と立て続けに返事がきていた。まるで私が飲兵衛(のんべえ)みたいじゃないか。……ある意味間違ってはいないけど。


「松隆、大学来てないみたいですよ」


 烏間先輩にそう伝えながら、松隆に『烏間先輩に聞いたんだけど、風邪? 生きてる?』と打った。そのまま既読がついたので、じっと返事を待っていると、烏間先輩が私のスマホを覗き込む。


「ああ、マジ? 本当に体調崩してんだな」

「らしいですよ。日曜からって考えると、まあまあ長いですね」


 今日は水曜日、すでに4日目だ。スマホの画面にはヒュッと次の吹き出しが現れ『風邪です。いつでもお見舞いを待ってます』と元気そうな返事がきた。


「先輩」

「なんで俺。空木が行ったほうが喜ぶだろ」

「烏間先輩でも喜ぶでしょ。松隆が懐いてる3回生といえば烏間先輩ですし」

「それをいうなら、松隆が懐いてる2回生といえば、だろ。男がいくより女がいくほうが嬉しいに決まってるんだから行ってやれよ」

「……紘に松隆と仲が良すぎるって言われたんですよ!」


 どうせ烏間先輩は面倒くさがって松隆の様子など見に行かないだろう、そう判断して絞り出せば「あ、んじゃ大宮には黙っとくから」と期待していたのとは別の回答がきた。


「それはそれで……私がやましいことしてるみたいじゃないですか……ただの後輩のお見舞いなのに……!」

「やましくないから報告しなかった、これでいいんじゃない」


 そんなことを言ったら、紘が茉莉と出かけたり飲みに行くのを報告しないのは「やましくないから」だという理由ができてしまう。そういうわけにはいかない。


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