大丈夫、浮気じゃないから。
「ま、空木は真面目だから浮気なんてしないだろうし、大宮の心配は見当はずれもいいところだとは思うけどさ」烏間先輩は金網に引っ掛けていたジャージを手に取って「そういうことなら、後輩のために俺も一緒に行きますかね」

「先輩1人で行けば……」

「LINEした相手は空木なのに、見舞いに来たのは俺。空木に避けられてるんじゃないか、なんて悩む松隆が可哀想だなあ」

松隆(アイツ)はそんな可愛さ持ち合わせていませんよ!」

「それは松隆のことがまだまだ分かってないぞ」


 コートから立ち去る準備をしながら、烏間先輩はスマホを貸してくれとでもいうように、私に向かって手を差しだす。言われるがままに貸せば、烏間先輩はそのまま電話をかけ「元気? 空木じゃなくて残念でした」なんてからかいながら「いまから空木と見舞い行くわ。なんか欲しいものある?」私が行くことを決めてしまう。思わず紘の姿を探せば、紘はランダを終え、私達とはコートを挟んで反対側に立ち、武田と話しているところだった。


「松隆、アイス食いたいって」


 ひょいと私の手にスマホを返しながら、烏間先輩は「俺と一緒ならいいだろ」とコートの外へ足を向けてしまった。

 私はもう一度紘を見る。コートを挟んで反対側とはいえ、紘が私を見ているか見ていないかくらいは分かる。紘は私を見ていなかった。


「……分かりましたよ」


 実際、返事はともかくとして3日も大学に来ていないとなれば心配ではある。顔を背けるようにして紘から視線を外した。

 そして、烏間先輩と一緒に松隆の部屋を訪ねれば、出てきた松隆は通常運転だったし、なんなら顔には「なんでこの疲れたときに先輩に合わなきゃならないんだ」と書いてあった。


「なんだ、元気そうだな。心配して損した」

「先輩はどうせ大したことないとか言ってあんまり心配してなかったじゃないですか」


 ティシャツにサークルのスウェット姿で、普段見かけない部屋着姿ではあったものの、それ以外はいつも通りの松隆だ。実際「風邪ひいてたのは本当ですよ。昨日でおおむね回復したんで、今日は念のため休んだだけです」ということらしい。


「逆に、僕が寝込んでたらどうするつもりだったんです」

「早々に帰る、伝染(うつ)されたくないから」

「ひどすぎません?」


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