大丈夫、浮気じゃないから。
第一章
検索キーワード「浮気」「どこから」。

 羅列される検索結果は「彼氏の浮気」「男女で異なる基準」「どこから許せる?」エトセトラ。「男女で異なる基準」をタップしたページは、広告のバナーで埋め尽くされていて「実は男女でちょっと基準が異なるんです」という文句を最後に次のページへと続いている。少ない情報量に少しだけ苛立ちながらも「次のページへ」をタップせずにはいられない。そして待ち望んだ情報は──「女は心、男は体の浮気に嫉妬する」。


「答えになってないですねえ」

「ぎゃ!」


 隣から聞こえた楽しそうな声に叫んでしまった。幸いにもここはテニスコート、ボールの音も人の声も飛び交っているので、私の叫び声に振り向く人はいなかった。

 とはいえ、隣でニヤニヤなんて擬態語が聞こえてきそうな笑みを浮かべる後輩を睨まずにはいられない。ついでに、時すでに遅しとは分かりつつも、スマホを傾けて画面を隠した。


「……松隆(まつたか)。先輩のスマホを(のぞ)き見するんじゃありません」

「失礼しました。しかめっ面でスマホを睨んでるんで、また例によって彼氏さんと揉めてるのかなあと心配になりまして」

「またって言うな。例によってって言うな!」

「だってそうでしょ、こんなサイト見て」口には出さないものの、くだらないと思っているのがひしひしと伝わってくる口調で「猫の手も借りたいならぬ、ネットの多数意見にでも頼りたいって感じですかね」


 私の隣に座ると、松隆は指先で私のスマホを傾け、堂々と画面を覗き見る。整った顔が嘲笑を浮かべた。


「男女で基準が違うっていうのは、まあ聞く話ではありますけど。基準が違うから理解し合えなくても我慢しろってことなんですかね」

「……『相手には自分の気持ちをしっかり伝えることが大切です』」

「それをできない人間がこういうサイトを見てるんですよね。ご愁傷様です」

「このっ……!」


 わなわなと震えるけれど、ぐうの音もでない。松隆の指摘は正しい。


「ていうかこれ本当?」


 目の前にいいインタビュー相手がいるじゃないかと勢いづいたけれど「女は心、男は体って部分です? さあ、どうでしょう」松隆は呑気(のんき)に首を傾げた。


「人によるとしか言いようがないんじゃないですかね」

「……ご参考までに松隆は?」

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