大丈夫、浮気じゃないから。
「……いや……そういう単純な話じゃ……」

「そういう単純な話じゃなくて?」

「……まあ、単純な話かもしれません」


 紘は私と松隆の関係に嫉妬するけど、私が紘と茉莉の仲に嫉妬することは許されず、浮気の定義はどこからなのか日々悩んでいます──そんな馬鹿正直な気持ちを先輩に吐露(とろ)することはできなかった。


「あ、烏間先輩、いいですよ。生葉先輩と大宮先輩の関係については日々色々と生葉先輩ご本人からうかがってますんで、生葉先輩に気を遣って烏間先輩が口を(つぐ)む必要はありません」

「お前は私に気を遣え!」

「じゃあ遠慮なく話すけど」

「先輩も私に気を遣ってくださいよ!」

「大宮と富野よりお前らのほうが仲良いだろ」

「えっ」

「光栄ですね」


 困惑してしまった私とは裏腹に、松隆は、本心なのかそうでないのか分からない、ただ適切なコミュニケーションとしてそう答えただけのような声音だ。松隆のリアクションは流すことに決めた。


「そうですか? どこらへんが? 具体的に?」

「面倒くさい彼女かよ」

「紘には言いませんよ!」

「なんというか、大宮と富野って、どっちかいうと、あの2人ってサークルで仲が良い組み合わせとか、いつもの飲みメンバーとか、そういう印象なんだよな」

「……それに比べ、私と松隆は」

「あまりにも自然に一緒にいるというか」


 紘と茉莉の関係とどう違うのだろう。紘と茉莉だって、授業を受けるにしても、昼食をとるにしても、サークルに来るにしても、どれをとったって一緒にいる。そこに不自然さなどない。

 首を傾げていると、烏間先輩も、少し困ったように片眉を吊り上げて「まあ、俺もなんとなくそう思うってだけで、その違いは言語化できないよ」と言うだけ。


「ちなみに、松隆から見て大宮と富野はどうなの」

「さあ……生葉先輩の手前、あんまり大宮先輩を擁護(ようご)するような言い方はしたくないですけど」

「私のことなんだと思ってるの? ヒステリックな先輩?」

「他の女子よりだいぶ仲が良いとは思うんですけど」松隆は再び私の言葉をスルーして「まあ、友達の域を出てない感じはしますよね。それこそ、決定的な浮気があるわけでもないし」

「なに、大宮、浮気疑われてるの?」

「……そういうわけじゃないんですけど」


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