大丈夫、浮気じゃないから。
 烏間先輩の唱える意見に、松隆は肩をすくめる。その点に関しては私も同意見だけど……。


「松隆って全体的に女子の味方みたいな考え方じゃない? 王子なのは顔だけにしなよ」

「なんで悪口みたいに言うんですか? そうだとしたらいいことでしょ」

「正直、松隆みたいに顔が良いヤツが女癖悪くないなんて信じられない」

「イケメンに騙された過去でもあるんですか?」


 そんな過去はないけど、だって顔も頭も性格も良いのに彼女がいないんだから、なにか欠陥があるか騙してるかのどっちかだと思うじゃん。でも口には出さなかった。

 その後もだらだらと喋り、お見舞いを口実にして後輩の部屋に居座る迷惑な先輩になってしまった。腰を上げたときには19時を過ぎていた。玄関まで歩きながら「先輩、暇なら夜食べましょうよ」「いいよと言いたいところだけど、今日は彼女の家行く約束してるから、ごめんな」「なんだ、残念」なんて遣り取りをする。

 すると背後から「僕でよければ付き合いますけど」なんて声が飛んできた。病み上がりで大学を休んでいる松隆がそんな申出をするはずないと高をくくっていたので、思わず硬直する。

 松隆と2人でご飯を食べているところを、紘に見つかったらどうする。


「……松隆は病み上がりでしょ。外でジャンキーなものは食べないほうがいいんじゃない」

「じゃあ定食にしましょう」

「私はジャンキーなものが食べたい気分で!」

「空木、大宮に言われたこと気にしすぎだろ」


 キッ、と烏間先輩を睨んだけれど、烏間先輩はどこ吹く風だ。いや、確かに他人事なのだが。


「それこそ、大宮に浮気の定義でも聞いてみたら。後輩と夕飯食べてたらアウトなんてことは言わないだろ」

「浮気の定義を彼氏に聞くなんて死ぬほど面倒くさい彼女じゃないですか!」


 プライドにかけてそんなことはできない。……悪いプライドだ。


「じゃ、学食でも行きます? 学食ならさすがになにも言われないでしょう」

「なんだ松隆、空木と夕飯食べたいの」

「冷蔵庫、空っぽなんで」


 答えになっていない答えをして、松隆はパーカーを羽織り、財布を持つ。私と一緒に夕飯を食べる気満々だ。しかもパーカーとスウェットという緩い恰好のまま着替える気配がないということは「学食ならいいんですよね?」と言わんばかり。

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