大丈夫、浮気じゃないから。
ぐぬ……と唇を引き結ぶ私の隣で烏間先輩だけが楽しそうだ。
「空木先輩、いいのかなあ、先輩と一緒に夕飯を食べようとする幼気な後輩を無視するなんて」
「松隆に幼気なんて可愛い形容詞は似合いませんよ!」
「別に子供っぽくないですけど、僕」
「そこじゃなくない?」
「どうでもいいけど、俺、彼女に連絡したからもう出る」
「後輩で遊ぶだけ遊んで収拾をつけない最低の先輩!」
はあ、と額に手をついた。
「わかった、わかったよ。学食行こ」
「そうしましょう」
烏間先輩の彼女の家は、大学とは真逆方向なので、松隆の部屋を出て早々、烏間先輩とは別れた。去り際に烏間先輩が「大宮に見つかるなよ」とまた茶化すので「見つかって困ることしてませんから!」とだけ言い返した。
大学へ足を向けながら、松隆は不意に「生葉先輩と烏間先輩って仲良しですよね」なんて口にする。
「まあ。1回生の頃からよく遊んでもらってるし、学部も同じだから過去問とかもらうし」
「烏間先輩のこと、好きにならなかったんですか?」
あまりにも唐突な質問に、きょとんと驚いた顔をしてみせたけれど、松隆の横顔に他意はなさそうで、ごく自然な疑問を口にしただけのような顔つきだ。
「正直、大宮先輩より、烏間先輩のほうがよくないですか?」
「人の彼氏を捕まえて本当に失礼なヤツだな」
「烏間先輩のほうが学部も同じだし、普通に仲良いですし。なんでです?」
「なんでって言われても……」
脇目もふらずに紘に夢中になっていた……とはさすがに恥ずかしくて口にできなかった。
「確かにいい先輩だとは思うし、仲もいいけど、あんまりピンとこないっていうか……。あ、烏間先輩は、ほら、ずっと付き合ってる彼女がいるから。そのせいかな」
「そのせいとは?」
「彼女がいると恋愛対象からはずれちゃわない?」
「そんなことないでしょ。そんなこと言ってたら不倫なんて存在しませんよ」
「そう言われたらそうかもしれないけど……。多分、相手が自分に恋愛感情を向けてないことが明確だからかな?」
烏間先輩の彼女に会ったことはない。でも仲が良いのは分かる。つまり、烏間先輩が私に後輩以上の感情を向けることはないというのは明白だ。
「空木先輩、いいのかなあ、先輩と一緒に夕飯を食べようとする幼気な後輩を無視するなんて」
「松隆に幼気なんて可愛い形容詞は似合いませんよ!」
「別に子供っぽくないですけど、僕」
「そこじゃなくない?」
「どうでもいいけど、俺、彼女に連絡したからもう出る」
「後輩で遊ぶだけ遊んで収拾をつけない最低の先輩!」
はあ、と額に手をついた。
「わかった、わかったよ。学食行こ」
「そうしましょう」
烏間先輩の彼女の家は、大学とは真逆方向なので、松隆の部屋を出て早々、烏間先輩とは別れた。去り際に烏間先輩が「大宮に見つかるなよ」とまた茶化すので「見つかって困ることしてませんから!」とだけ言い返した。
大学へ足を向けながら、松隆は不意に「生葉先輩と烏間先輩って仲良しですよね」なんて口にする。
「まあ。1回生の頃からよく遊んでもらってるし、学部も同じだから過去問とかもらうし」
「烏間先輩のこと、好きにならなかったんですか?」
あまりにも唐突な質問に、きょとんと驚いた顔をしてみせたけれど、松隆の横顔に他意はなさそうで、ごく自然な疑問を口にしただけのような顔つきだ。
「正直、大宮先輩より、烏間先輩のほうがよくないですか?」
「人の彼氏を捕まえて本当に失礼なヤツだな」
「烏間先輩のほうが学部も同じだし、普通に仲良いですし。なんでです?」
「なんでって言われても……」
脇目もふらずに紘に夢中になっていた……とはさすがに恥ずかしくて口にできなかった。
「確かにいい先輩だとは思うし、仲もいいけど、あんまりピンとこないっていうか……。あ、烏間先輩は、ほら、ずっと付き合ってる彼女がいるから。そのせいかな」
「そのせいとは?」
「彼女がいると恋愛対象からはずれちゃわない?」
「そんなことないでしょ。そんなこと言ってたら不倫なんて存在しませんよ」
「そう言われたらそうかもしれないけど……。多分、相手が自分に恋愛感情を向けてないことが明確だからかな?」
烏間先輩の彼女に会ったことはない。でも仲が良いのは分かる。つまり、烏間先輩が私に後輩以上の感情を向けることはないというのは明白だ。