大丈夫、浮気じゃないから。
「自分に興味のない人間に興味なんて湧かないでしょ」

「……そういうもんですかね」

「少なくとも私は」

「まあ、烏間先輩は彼女とは別の相手と遊ぶことも、好きになることもなさそうですし、その意味では納得できるといえばできる気がしますね。生葉先輩と烏間先輩が付き合うには世界線がずれてたというか」


 つまり、烏間先輩に彼女がいなければ好きになっていたのではないかと。烏間先輩に好みでない部分なんてないし、むしろ好みをいえば烏間先輩はぴったり当てはまるのだろうし、もっともな指摘である気はした。


「……確かに、会ったときに彼女がいなかったら好きになってたのかも」

「でしょう?」

「そう考えると、やっぱり恋愛ってタイミングだなあ」


 考えたことはなかったけれど、烏間先輩と付き合っていた未来もあったのかもしれない。しみじみと頷く私の隣で、松隆も静かに頷いた。


「ええ、本当に」

「なに、松隆もそんな経験あるの?」

「タイミングが合わなかったみたいな経験は特にないです」

「なにその気になる言い方! そういえば松隆の恋愛遍歴って聞いたことない!」

「なんでそんなに食いつくんですか」


 そりゃ、いつも余裕たっぷりの生意気な後輩がイヤな顔をすればいじめたくなるに決まってる。


「イケメンって彼女何人くらいいたことあるの?」

「なんですか、その雑な質問……酔ってます?」

「飲んでません。あ、でも松隆はあんまり特定の相手は作りそうにないな……」

「僕に対する偏見が本当に酷いです。こう見えても結構健気なんですよ」

「結構健気」


 その字面が松隆に似合わな過ぎて声を上げて笑ってしまった。松隆はしかめっ面をするけれど、この顔に好きだといわれて落ちない女子なんていないはずなので、健気なんてものからは無縁としか思えなかった。


「いいね、松隆が健気になる相手、見てみたい」

「後輩いじめはよくないですよ」

「普段いじめられてるから、仕返しに」


 初めて松隆より優位に立てた気がして、うきうきなんて聞こえてきそうな足取りになってしまったけれど──通りの向こうからやってくる2人組が目に入った瞬間、全身が凍り付いた。

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