大丈夫、浮気じゃないから。
私の異変を敏感に感じ取った松隆が訝し気に見下ろしてくる気配がした。そして、私が答えるより先に、松隆は私の異変の原因に気が付く。
「あれ、生葉ちゃん」
向かいから歩いてきたのは、紘と茉莉だった。
どうしたの、なんてこっちのセリフだ。茉莉の恰好を盗み見れば、お出かけ用と言わんばかりの小さなバッグを持っているだけだったし、紘だって、財布だけをポケットに突っ込んでいる。これから飲みにでも出かけるところなんだってことはすぐに分かった。
またか、と心の中で嫉妬の感情が渦巻く。また、紘と、茉莉か。
「お疲れ様です」
「あ、おつかれさま、松隆くん」
「どうした、こんなとこで」
挨拶をした後輩に、紘は挨拶を返さなかった。そんなことを、無性に腹立たしく感じた。
「……烏間先輩と、松隆のお見舞いに行ってて。ついでに学食でも行って夕飯食べようかって話してたところ」
「松隆くん、具合悪かったの? 大丈夫?」
「ええ、今日は大事を取って休んだだけなんで。烏間先輩にも意外と元気だなって言われましたよ」
後半を付け加えてくれたのは、きっと私のためだろう。でもも紘の機嫌が良くなる気配はなく、「へえ」と返すだけだった。
「2人は?」
そして私は、分かりきった答えを聞く。
「私達も、今から飲みにいくところ。生葉ちゃんと松隆くんも来る? 沙那も来るから」
3人なら、止める理由はない。紘と茉莉の仲が良すぎるとしても、私が沙那を好きじゃないとしても、3人で飲むのにわざわざ2人で歩いているとしても、手を繋いでいたわけでもないし、そもそも紘と茉莉は2人きりで飲むわけではない。
私は“イヤ”だけれど、目の前の事象に「浮気」に当てはまりそうな行動はない。
「いえ、僕はやめときます。病み上がりですし」
「……私もいい」
「ま、お前飲めないもんな。じゃ」
「じゃあ2人とも、またコートでね」
紘が、茉莉と一緒に私の隣を通り過ぎる。拍子に、冷たい風が半身を撫でた。
浮気の定義は? ──客観的行動から判断するべき。気持ちが動いてなくても、恋人以外の相手と恋人らしい行動をとっていたら、それは浮気。
「あれ、生葉ちゃん」
向かいから歩いてきたのは、紘と茉莉だった。
どうしたの、なんてこっちのセリフだ。茉莉の恰好を盗み見れば、お出かけ用と言わんばかりの小さなバッグを持っているだけだったし、紘だって、財布だけをポケットに突っ込んでいる。これから飲みにでも出かけるところなんだってことはすぐに分かった。
またか、と心の中で嫉妬の感情が渦巻く。また、紘と、茉莉か。
「お疲れ様です」
「あ、おつかれさま、松隆くん」
「どうした、こんなとこで」
挨拶をした後輩に、紘は挨拶を返さなかった。そんなことを、無性に腹立たしく感じた。
「……烏間先輩と、松隆のお見舞いに行ってて。ついでに学食でも行って夕飯食べようかって話してたところ」
「松隆くん、具合悪かったの? 大丈夫?」
「ええ、今日は大事を取って休んだだけなんで。烏間先輩にも意外と元気だなって言われましたよ」
後半を付け加えてくれたのは、きっと私のためだろう。でもも紘の機嫌が良くなる気配はなく、「へえ」と返すだけだった。
「2人は?」
そして私は、分かりきった答えを聞く。
「私達も、今から飲みにいくところ。生葉ちゃんと松隆くんも来る? 沙那も来るから」
3人なら、止める理由はない。紘と茉莉の仲が良すぎるとしても、私が沙那を好きじゃないとしても、3人で飲むのにわざわざ2人で歩いているとしても、手を繋いでいたわけでもないし、そもそも紘と茉莉は2人きりで飲むわけではない。
私は“イヤ”だけれど、目の前の事象に「浮気」に当てはまりそうな行動はない。
「いえ、僕はやめときます。病み上がりですし」
「……私もいい」
「ま、お前飲めないもんな。じゃ」
「じゃあ2人とも、またコートでね」
紘が、茉莉と一緒に私の隣を通り過ぎる。拍子に、冷たい風が半身を撫でた。
浮気の定義は? ──客観的行動から判断するべき。気持ちが動いてなくても、恋人以外の相手と恋人らしい行動をとっていたら、それは浮気。