大丈夫、浮気じゃないから。
第二章
 紘と初めて会ったのは、1回生の、1限目にあった英語の授業だ。

 空木と大宮。その苗字のせいで偶然隣の席になった。第一印象は覚えていない、というより、特にない。隣の席が女子だったら友達になれたのに、と思ったくらいだ。


「隣の席同士で自己紹介をしてください。次の授業では、隣の人のことを紹介してもらいますので、ちゃんとお互いのことを話してくださいね」


 初っ端からそんな無理難題を設定されて、受験が終わって以来、触れてもなかった英語を喋る羽目になった。紘もそれは同じで「ヤバい、マジで何も出てこない」と狼狽(ろうばい)していたから、少し安心した。

 名古屋の男子校出身。中高はサッカー部に入っていたし、七帝戦に出たい気持ちもちょっとあるけれど、部活はもう充分頑張ったし、浪人生活1年分のブランクがあるから、大学ではサークル程度にしておくつもり。体を動かすことが好き。サッカー以外も、野球も、テニスも、バスケも好き。

 英語は苦手。リスニングは嫌い。聞き取れないし、そもそも、他人の会話をわざわざ盗み聞きさせられている気分になる。なんでこんなことをしなきゃいけないんだと、中学時代からずっと気に食わなかった。

 5月1日生まれだから、もうすぐ二十歳になってお酒が解禁されるのが楽しみ。でも、新歓は4月中が中心だから、少し損した気分でもある。実は3月に合格祝いと称して父親と一緒に酒を飲んだ。父親が知り合いから貰ったワインだったけど、美味しすぎてあっという間に一本開けてしまって、同じく楽しみにしていた母親に怒られた。

 たどたどしい英語で最初に聞いた紘の話は、そんなところだった。笑いながら「私はテニス部だったから、テニスサークルに入るつもり」「英語は得意だったけど、いま喋ってるともうなにも言えないなと思う」「四国出身だけど、一家そろって下戸(げこ)ばかり」「知り合いがいないから、早く友達を作りたいなと思ってる」と話した。幸いにも、その日の午後の法学部の授業で、松崎(まつざき)みどりという友達はできた。

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