大丈夫、浮気じゃないから。
 1週間後の授業で、私が紘を、紘が私を紹介した。紘は私のことを「みなさんが聞いていたとおり、俺と違って彼女は英語が堪能なので、彼女のことはよく分かりました」「四国出身らしいです。聞いた瞬間、早速酒飲み仲間を見つけたと思ったけど、下戸と聞いてがっかりしました」と茶化した。授業終わりに、私達は「疲れたね」とだけ話して、解散した。

 その日、みどりと一緒にテニスサークルを覗いた。ごまんとあるテニスサークルの中で今のサークル『TKC』を選んだのは、烏間先輩が理由だった。というのも、法学部の専門授業に、烏間先輩をメンバーとする『法律研究サークル』がサークル紹介にやってきて、私とみどりにチラシを配りながら「ちなみにテニスに興味ない? 俺、テニサーにも入ってるから、研究サークルに興味なかったらこっちおいでよ」と紹介してくれたから。いま思えばとんでもない先輩だ。

 烏間先輩は、私達を見つけると「法学部1回生の子だよね?」とすぐに話しかけてくれた。ついでに、隣にいた喜多山(きたやま)先輩と「知り合い?」「いや、今日、(ほう)(けん)のサークル紹介やってたんだけど、あんま興味なさそうな顔されたから、ついでにTKCの宣伝を」「おおー、偉い。やっぱ広報にはイケメン使うに限るな」なんて話していた。


「空木さんじゃん」


 更にそこに現れたのが、紘だ。紘は、武田くんと一緒に、テニスラケットまで持ってコートにやってきていた。烏間先輩は「大宮、だっけ?」と紘の苗字を確かめたので、紘が私達より先に『TKC』に目をつけていたことが分かった。


「大宮、経済じゃなかったっけ? この子らと知り合い?」

「いや、知ってるのは空木さんだけっす」みどりに一瞬だけ視線をやって、紘は肩を竦め「英語で隣なんすよ、空木さん」

「んじゃー、1回生同士すでに知り合いなんじゃん! ちょうどいいな!」


 喜多山先輩がそんな適当なまとめ方をした数日後、気付けば私とみどりはTKCへ入ることが決まっていた。もともとテニサーには入ろうと思っていたし、烏間先輩と馬が合いそうだったし──なんとなく、「大宮くんもいるんだ」と思っている自分がいた。

 4月に思っていたのは、それだけだ。



(2)

「生葉ちゃん、元気ないなあ」


< 35 / 153 >

この作品をシェア

pagetop