大丈夫、浮気じゃないから。
 みどりの言葉に、自分の愛想笑いが固まるのを感じた。なんならご飯を運ぶお箸ごと固まった。


「……分か……る……?」

「うーん、なんか、覇気(はき)がないっていうか」

「言葉選びにみどりの優しさが伝わってくる……」

「大宮くんと何かあったん?」


 ……まあ、元気のない大学2回生の悩みなんて、環境や友達のことではなく恋人のことだと察しはつくだろう。しいていうなら人生を悩んでもいい年頃かもしれないけれど、そんな大それたものを悩むには私はまだ未熟で、一方で成熟もしている。


「なにか……ってわけじゃ……というかみどりの意見も聞いていい!?」

「いいよいいよ、なに?」


 大きく頷くみどりに、私は勢いよくお箸をプレートに置く。


「浮気ってどこから?」

「……え、難しいこと言うやん」


 途端にみどりは困った顔に変わった。


「ていうか、大宮くん、浮気してんの?」

「いや、してない……してないと思います……というか、浮気の定義を決めないと浮気してるという判断もできないなと……」

「そういうことかあ。どうなんやろなあ、自分以外の人のこと好きになったら浮気かなあ」


 ごく一般的な回答であると同時に、みどりらしい回答ではあった。でも満足する回答ではなかった。


「じゃあ……好きじゃないけど、彼氏が自分以外の女子とデートしてる場合は? これは浮気じゃない?」

「好きじゃないなら浮気とは言わんけど、普通にイヤやなあ」みどりはしかめっ面で「だってデートする理由が分からんやん? 彼女のプレゼントを選んでもらうとかよく聞くけど、そんなん他の女子とデートして選ばれても複雑やろ」

「……そうだよねえ」


 それは、心底満足する回答だった──1週間前までなら。

 紘の行動をどこまで浮気というか。それを考えるための質問なら、みどりのその回答は「だよね! 浮気とまでは言えないけど、普通にヤダよね! これ我儘じゃないよね!」と両手を握って激しく首を縦に振っていただろう。


「もしかして、大宮くんと茉莉ちゃんのこと?」

「……うん」


 紘の行動が気になっているという意味では嘘ではなかった。


「でも、ほら、茉莉っていい子だから」


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