大丈夫、浮気じゃないから。
 とはいえ、茉莉に嫉妬しているなんて、恥ずかしくて口にできなかったので、お箸と共に気を取り直しながら慌てて口にする。


「他人の彼氏を取ってやろうみたいなイヤな女子じゃないじゃん。それどころかめちゃくちゃいい子だし……」


 フィクションの世界では「金持ち美女は性悪」がお決まりの設定だけれど、そんなのはまさしくフィクションだ。もちろん例外もいるとはいえ、本当にお金持ちで本当に美人な女子は性格までが良い。実際、茉莉は、実家が開業医のお嬢様だけれど、カジュアルな恰好ばかりで気取ったところはなく、美人なのにそれを鼻にかけることもない、万人が認める「本当にすごくいい子」だ。茉莉を選ぶ男は見る目がある。


「……でも、だからこそイヤじゃない?」

「そうなんだよね!」


 さっきまでのプライドはどこへやら。なんなら本当に悩んでいたことまで吹っ飛んだ。

思わず力強く頷いてしまった後で額を押さえる。


「……ごめん、このことは内緒に……」

「もちろん。でもなあ、茉莉ちゃん、いい子やから、大宮くんにも言いにくいよなあ。言ったらこっちが悪者みたいやもん」


 彼女やったら当たり前やのにな、という言葉も含めて激しく頷いた。


「もっと……こう、茉莉が男をとっかえひっかえするようなイヤな女子だったらね、紘も狙われてるよって言えるんだけどね」

「それな。せめて、大宮くんが生葉ちゃんに束縛強いタイプやったら言えるのにな」

「……それはつまり」

「ほら、生葉ちゃんに向かって、例えば松隆くんと遊ぶなとか、烏間先輩と飲みに行くなとか。そういうこと言うんやったら、大宮くんにも茉莉ちゃんと出かけんでって言っていい気がせん?」


 イヤな予感が的中し、今度は視線を泳がせるはめになった。また当初の悩みが思考の中に戻ってきた。


「ていうか、大宮くん、実際どうなん。茉莉ちゃんとコートに一緒に来るのはよく見るけど、2人で飲みに行ったりとかもしてるん?」

「あー、うーんと、2人で飲みに行くというと微妙で」話題がそれたことに安心しながら「ほら、紘ってバーでバイトしてるじゃん。暇なときに茉莉ちゃんに連絡して、飲みにおいでよって誘うことはわりとあるみたい。バイトとは関係なく茉莉ちゃんと2人で飲みに行くっていうのはあんまりなくて、基本は沙那と3人……」

「うわ、微妙……」


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