大丈夫、浮気じゃないから。
「うん、らしいよ。知ってるの?」

「知ってるっていうか、見たかったけど見逃してて、この間BDで見たところだったのに」

「ありますよね、そういうこと。でもシーンが途切れたりカットされたりすることがないぶん、BD借りるならそれに越したことはないような気もしますけど」

「松隆くん……優しい……」

「口先だけだから、この子が優しいの」

「僕はいつでも先輩に優しいじゃないですか。現に──」


 思わず松隆の足を踏んだ。整った顔が一瞬|歪(ゆが)み、恨みがまし気に見られるけど、知ったことか。何も知らない茉莉は当然小首を傾げる。


「なに? どうしたの?」

「いやなんでも」

「先輩が(へこ)んだときはいつでもご飯に誘ってあげてるのにって話です」

「松隆っ!」

「やっぱり松隆くんは紳士だからなあ。いいじゃん、生葉ちゃん、こう、イケメン執事ができたみたいな感じで!」

「そんな可愛らしいもんじゃないって」


 松隆の足を踏み続けていると、コートにやって来た紘の姿が目に入ったので慌てて足をどけた。紘はラケットケースを背負ったまま「おつかれー」と私達に合流する。


「なんか珍しいメンツだな」

「今日『Good bye my…』の映画をやるらしいんで、その話をしてたんですよ」

「紘、今日サッカーの飲み会なんでしょ。見るなら録画するけど」


 アニメーション映画だから紘も見るだろう、そう思って口にしたのが、間違いだった。


「いや、先週BD見たからいいや」


 多分、紘以外の3人が硬直した。少なくとも、私と松隆は同じ疑念を共有した。

 もしかして、この2人、一緒にBDを借りて見てたのか?

「1時間くらいしか打てないんだよなー。基礎練やったら終わりそう」


 でも紘はそんな空気に気付かず、または気付いたからか、ラケットを腕と背中の間に挟んでストレッチしながら、奥のコートへ行ってしまった。


「あ、あのね、私と2人じゃなくて、沙那もいたから!」


 珍しく慌てた口調の茉莉が、私と松隆に弁解をする。


「飲みに行った後、なにか映画でも見ようって話になって、それで大宮くんの部屋で『真冬の蜃気楼(しんきろう)』を3人で見てたんだけど……。その、『真冬の蜃気楼』の途中で、沙那は東野くんに呼び出されて帰ることになっちゃって」


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