大丈夫、浮気じゃないから。
 松隆の部屋と違い、私の部屋は大学生にありがちなありふれた1Kの部屋だ。大して広くもないのでソファはなく、ベッドにチェストボードにテレビ、こたつ机と備え付けのクローゼットがあるだけだし、しかも白で統一された家具がシンプルさを際立ててしまっている。ささやかな反抗として、ピンク色を基調とした花柄のベッドカバーがあるだけだ。


「椅子はないから、ベッドにでも座って」

「部屋に来た男にベッドに座れとか言わないほうがいいですよ」

「松隆は後輩だからノーカン」


 それでも遠慮したのか、松隆はベッドを背に床に座っていた。


「先輩の部屋、初めて入りましたけど、先輩らしい部屋ですね」

「どのあたりが?」

「色のないあたりが」

「私のことなんだと思ってんの。っていうか、ベッドカバーは白じゃないじゃん」


 テーブルのうえに、映画のつまみ代わりに買ってきたお菓子を広げる。お酒を飲めない私と松隆の目の前に並ぶのは、ポッキーと、塩味のおかき。甘いものと塩辛いものを1つずつ、そして手が汚れないようにというラインナップ。


「飲み物、コーヒーでいい?」

「いいですよ。ありがとうございます」

「マリアージュフレールと並べるようないいコーヒー豆じゃないけどね」


 時計を確認すると、『Good bye my…』が始まるまで10分くらいあった。お陰で、何をするでもなく松隆が部屋にいる状態になってしまっている。ベッドを背に2人横に並んでいるのもあって、少しだけ妙な違和感を覚えた。


「……そういえば、松隆、学祭は何もしないの」

「あー、まあ、客引きだけはしっかりやれって喜多山(きたやま)先輩に言われましたけど。そのくらいですかね。先輩は?」


 緊張感から無理矢理ひねり出した話題だったけれど、松隆は気にした素振りはなかった。


「私も客引きだけ行けって。土日だけやって、あとはまあ、家でのんびりかな。でも松隆は学祭初めてでしょ?」

「まあ。来週、浪速(なにわ)大の学祭に行く予定なんで、うちとどう違うかは見てみようと思ってるんですけど」

「なに、ナンパでもしに行くの」

「違いますよ。幼馴染の兄貴がいて、遊びに来いって言うんで。その幼馴染も一緒に」

「ああ、例の」


 この間も出てきた子の話か。


「仲良いよね。幼馴染って、いつから?」

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