大丈夫、浮気じゃないから。
『あの森には近づいてはいけないよ……』

『魔女が住んでるんだ』

『人を食う、魔女が……』

「そういえば、魔女が孤児を拾う話だっけ?」


 ポテチをつまみながら松隆に解説を求めると、松隆は映画から目を離さず「ええ。魔女は二百余歳という設定ですね」と頷く。


「で、この3人の子供が孤児、と」

「髪色でキャラ名を覚えてください。グリーンがエメ、赤がグレン、銀がロイーズです」

「グリーンがエメラルドで赤が紅蓮なのは分かるけど、なんで銀がロイーズなの」

「それは僕に聞かれても」


 どうやら、冒頭のシーンで湖に投げ入れられた「何か」は子供で、しかもメインキャラクターである3人の子供の友達だったらしい。湖に投げられた理由は、昔話にありがちな生贄(いけにえ)だろう。整理すると、生贄になった子供への罪滅ぼしから、魔女が孤児3人を育て始めるというわけだ。


「これ、最初に子供を生贄に投げたのは誰なの?」

「なんでネタバレを聞こうとするんですか? 映画、見る気あります?」

「ごめんつい」


 作中で、3人の孤児は、いつしか貴族に並ぶエリート官吏となっていく。そして青年へと成長した3人のうち、2人が魔女ラシェルへの恋心を自覚し、ラシェルを巡って喧嘩を始めた。


「なるほど、エメとグレンだけちょっと含みのあるセリフが多いと思ったら、そういうことか……」

「まあ、順当で自然なストーリーですよね。思慕(しぼ)恋慕(れんぼ)はどう違うのか、なんて聞こえてきそうな設定ですが」

「そういう考察をしてるのを聞くと松隆ってもしかしてオタクなのかなって思う」

「好きな作品を考察して何が悪いんですか」


 なんて、そんな悠長な話をしている場合ではなかった。

『ラシェル様、どうしてもだめですか』

 エメが魔女を押し倒した……。魔女の年齢設定は200歳を超えているとはいえ、そこはフィクションの世界、見た目は二十歳前後だし、エメは18歳。アニメーション映画なのでセーフだけれど、そうでなければ、後輩男子と2人でラブシーンを見るのは気まずいものがある気がした。


「そういえば、『真冬の蜃気楼』ってサスペンスホラー映画ですよね」

「……急になに」


 茉莉と紘が一緒に見たという映画だ。やっぱり松隆も、多少気まずいと思ったのだろうか。


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