大丈夫、浮気じゃないから。
「……中学生のときですよ」

「……なんで別れたの?」

「付き合ってませんよ」

「え、なんで」


 でもそうか、中学生ってまだ付き合う付き合わないの観念がはっきりしないことも多いか……。後輩と思えないほどしっかりした松隆がそんな感じだったとは想像できないけれど。


「なんでもなにも、告白する前に失恋しました」

「はあ?」


 想像と180度違う回答に、素っ頓狂な声が出てしまった。だって、相手はこの松隆だ。有り得ないくらい整った美形で、きっと中学生の頃から大人びた性格で、他の有象無象みたいな男子とは一線を画していたに違いないのに。


「なんで?」

「なんでって言われても。というか、僕が知りたいですね」

「ごめん、それはそうだわ」

「納得されると腹が立ちますけど」溜息交じりに、松隆は頬杖をついて「中学のとき、クラスにいた子だったんですけど。大人しくて、いつも教室の隅っこで本を読んでるような子でした。うちのクラスは、どっちかいうとうるさい女子が多かったんで、まあ、今覚えば、一風変わった物静かなところというか、そういうところが好きだったんだと思います」

「……それで? 告白する前に失恋したって?」

「バレンタインに、その子が告白したのを見ちゃったんですよ。よりによって親友に」

「うわ……」


 途端にこの完璧な王子様が可哀想に思えてきた。


「それ、仲悪くならなかった?」

「親友とですか? それは別に……。まあ、中学生の初恋ですしね。ぼんやりと好きかもしれないなあと思ってたら、自分じゃない相手に告白してるのを見て、好きだったんだって気付いたら終わってた、みたいな感じです。親友も、その子と付き合ったわけじゃありませんでしたしね」

「……松隆の顔なら恋愛になんの苦労もないんだとばかり思ってた。なんかごめんね」

「言ったでしょ、僕は結構健気ですよって」


 確かにそうかもしれない。反省した。


「まあ、ついでに話すと、次に好きになった人には告白してもフラれました。それはもうあっさり」

「……松隆ってもしかして恋愛運ない人?」

「そうかもしれませんね。そういう先輩は?」


 矛先が自分に向いていると気づいたのか、話題を変えられてしまった。


「大宮先輩と、なんで付き合ったんですか?」

「なんでって……」


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