大丈夫、浮気じゃないから。
 たまたま、英語のクラスが同じで。最初の授業が自己紹介だったから、授業丸1回分、互いのことを話すと、なんだか打ち解けたような気持ちになってしまって。その後、たまたま入ったサークルも同じで。


「……それこそ、タイミングかな」


 恋愛はタイミングだという、前回の松隆の言葉を思い出した。


「授業とかサークルが一緒だったから、自然に仲良くなったみたいな」

「まあ、ありがちですね」


 そして、実は、その言葉を聞いて以来、怖かったことがある。


「……紘は、茉莉とタイミングが合わなかっただけなのかな」


 私が、うっかり、紘を好きになってしまったがばっかりに、紘は茉莉を好きになるタイミングを逃してしまったのではないかということ。


「……なんですか、急に」

「……紘って、男子校出身じゃん」

「らしいですね」

「……男子校出身だと、目が合った女子を好きになるっていうじゃん?」

「まあ、それはさすがに大げさですけど、その揶揄(やゆ)は正しいんじゃないかと思います。思春期に女子がいない環境で育つわけですからね、話しやすい女子を好きになりがちというのは有り得そうです」


 僕は共学なので分かりませんが、と。


「……私が、紘を好きになったんだよね」


 口に出すと、私だけが一方的に紘を好きになってしまっていただけのように聞こえて、怖くなった。でもそれは事実かもしれない。


「私が……、紘を好きで。紘は、別に、私のことをなんとも思ってなかった。それが、男子校出身だったから、手近で手軽な私を……好きだと思ったか、好きだと勘違いしたのか、分からないけど」

「……先輩が大宮先輩のことを好きにならなければ、大宮先輩は先輩じゃなくて富野先輩と付き合ってたかもしれないって?」

「……なんでそんなはっきり口に出すの」

「仮定の話でしょ」


 松隆は、胡坐をやめて片膝を立て、ベッドに背を預けた。後輩にしては横柄な態度のせいで、まるで同期の男に見えた。彼氏の浮気まがいの行動を咎める勇気を持つことのできない、そんなどうしようもない女の愚痴を聞く、ただの男。


「そんなの、いくら想像したって、分かりませんよ。大宮先輩にはっきり聞かない限り。聞いても、分からないかもしれませんけど」

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